AEVE ENDING
「なにを言います。女神と男神、アナセスと雲雀。この地上で結ばれるべきは、貴方方ふたり以外、存在いたしませんでしょうに」
「そうですわ。貴方方ふたりが結ばれて子を授からなければ、この荒廃した地上は死の国となってしまいますもの」
語る言葉はなによりも狂言、狂気、凶悪。
己の欲望のためだけに、正義を振りかざそうとする。
そうして美しく微笑む裏で、あんな惨いことができるような人間が―――。
(橘の奴がもしこいつらの前に再び立ったら)
きっともう、彼らは無事では済むまい。
今こうして生き延びたことすら、奇跡に近い。
現に彼らの体には、未だ倫子に負わされた傷がちらちらと目立つ。
「…さぁ、アナセス。もっとお話するためにも、あちらでお茶でもしませんこと?新しい薔薇の紅茶を用意させたんですよ」
にこやかな笑みが深く深く赤い薔薇に埋もれてゆく。
消えてゆく暗闇の浅瀬に、雷は散るか。
「―――旦那様、奥様っ」
アナセスが諦めの色を濃くした頃、一人のメイドが躊躇いの声で飛び込んできた。
テラスに移動中だった雲雀の父と母は不愉快げに眉を寄せる。
慌ただしいメイドの諸行が気に入らないのだろう。
焦燥を浮かべたメイドを叱責の視線で迎える。
「なんですの、はしたない」
そうして己を叱り飛ばした主の言葉を気にも止めず、メイドは切らした息で顔を上げた―――。
「…っ、」
それと同時に、「彼」は現れた。
カチャリ…。
開け放しだった白木の扉が風もないのに小さく揺らぐ。
現れた人物を自ずと導くようなその現象に、アナセスがほっと息を吐く。
よく磨かれた革靴の先が音もなく部屋へと入ってきた。
風に愛でられているように靡く黒髪は、一度見たら忘れられない―――。
「…なんで君達がいるの」
静かに発せられたそれは、今や聞きなれた声色だ。
淡々としていて穏やかに聞こえるが、どこか玲瓏。
一体どんな構造をしていればそんな声が出るのか。
「雲雀…」
思わず呟いたそれは、「神」の名だ。
じわりと空気が変わったのは、彼のせいだろう。