AEVE ENDING
駆け込んできたメイドが萎縮したように部屋の端へと避ける。
当然、雲雀の姿を確認した時点であの二人も体を硬くしていた。
反してアナセスは落ち着いたように表情を柔らかくし、安心したと言わんばかりに息を吐く。
緊迫していた空気はそのままだが、どこか穏やかな気配を見せたのは、明らかにこちらへと権勢が傾いたからだ。
雲雀はロビンやアナセスの味方ではないが、倫子に危害を加えた二人の味方でもない。
どっちでもない―――、橘倫子だけの、味方。
(神を相棒にするとは、恐れ入るぜ、橘)
「…なに、あれ」
雲雀がふと視線を巡らす。
その先には、アナセスの為に拵えられたという純白のウェディングドレス。
清楚な空気を漂わせるその物体に、雲雀は訝しげに眉を寄せた。
夫婦は呆然と立ち尽くしたまま、動こうとしない。
だから代わりにロビンが答えた。
「アナセスのウェディングドレス」
雲雀の眉が益々近くに寄る。
不可解だと言わんばかりに顔を歪めているのに、その端麗さは損なわれない。
「…誰と結婚するの?」
「貴方とらしいです」
そうしてすかさずその疑問に答えあぐねていると、次の瞬間にはアナセスが口を開いていた。
どこまでも身勝手に進められた縁談が相当気に入らなかったらしい。
最近のアナセスは雲雀より倫子寄りの為、彼女の障害にはなりたくないというのが本音だろう。
ゆるり。
純白のドレスの裾が揺れた。
「…ばかじゃないの」
そして吐かれたその台詞は夫婦に向けられたもの。
途端に竦む二人の足があからさまに震えた。
義理とは言え自分の息子だろうに、その存在をこの世のなによりも恐れている、理由。
「…雲雀、さん」
母である女が震える声を出した。
窺うような、請うような、情けない声。
その表情は媚びるように艶立ち、第三者ですら息を飲むほどに美しい。
美しい―――が、それが通用すれば「神」を畏れる必要はないのだ。