AEVE ENDING
「…僕を引き取ってくれた件と橘の件については感謝してる。僕自身、不快に思うくらいにね」
緩く落ちていくその言葉になにやらを孕む気配を感じ、気の抜けていた二人は再び背筋を伸ばす。
常人ではわからない程度に低くなった声のトーンに、ロビンは意識的に呼吸を浅くした。
アナセスは雲雀が次になにを語るか予想がついているのか、ただ静かに事の成り行きを見守っている。
「貴女達が橘を見初めてモルモットにしなければ、僕が橘と会うことはなかった。…きっと、永遠にね」
―――橘倫子。
傷付いて傷付いて、地の底に落ちたままもがくあの無様で誇り高い生き物を。
「…橘を再起不能なまでに傷付けてくれてありがとう。橘を「僕」にしてくれてありがとう。橘を僕とを引き会わせてくれたことには感謝してもしきれない」
淡々と続けられる口調はどこか自嘲すら混じっているように思える。
ソファに腰掛けたまま、気だるげに脚を組み替える雲雀に、礼を述べられた二人はこれでもかと言うほどに硬直していた。
(…そりゃあ、そうだろうなぁ)
あの雲雀が。
あの雲雀が、「ありがとう」とのたまったのだ。
(―――あの雲雀が)
「死ね」が口癖であっても、「ありがとう」など天変地位が起こっても言わないような雲雀が。
あの、雲雀が。