AEVE ENDING
「…怖いの?」
ほら、来た。
解っているからこそ、読まれたくなんかなかったのに。
無表情な顔で、馬鹿にするでもなく、ただ尋ねてくる、だけ。
「怖いというか、」
「不安…が、正しいかな」
わざわざ口にしなくたって解ってるんだから、わざわざ訊かなきゃいいのに。
その端正でぶれない横顔がムカつく。
その穢れない顔で、人の弱点を躊躇なくぶっ刺すもんだから。
「読んでたなら、解るだろ」
「…そうだね」
甲板の縁に座り込んだ倫子と、その隣りに立つ、雲雀。
(…皮肉なもんだ)
こうして、この男と肩を並べているなんて。
「あの頃」は、考えやしなかったのに。
「―――橘、」
その、人のものとは思えないような美しい声で呼ばれても、振り向きたくなんて、ない。
「…なに」
その声を無視して反するなんてそんなこと、できやしないのに。
「なにが、皮肉なの?」
ザ、と潮が跳ねた。
真っ直ぐな瞳はまるで艶やかで貞淑な花のようで、なにもかも見透かされているような。
「…別に」
知られたくない事実は、それこそ底が腐るほどあるのに。
「ねぇ」
ほら、その眼。
(私が隠してるなにもかもを、見透かすような眼をする)
青みが深い黒は、不透明で透明。
それは罪だ。
―――苛々する。
(何も知らない癖に、私を知るような眼で、見る)
「不愉快。頭のなか読まれてこんなに苛ついたのは初めてだ」
「僕もだよ。他人にここまで苛立たされるなんて、初めての経験だ」
―――ムカつく。
ふるふると苛立ちを抑えながら、雲雀を睨み付けていれば、視界が急に暗病んだ。
上空を覆う雲が、変わったのだ。
「見えた」
ぽつりと呟かれた一言が、不吉を思わせる。
雲雀の視線を辿れば、船首の先。
「―――北の島だ」
その様相はまるで、おぞましい要塞のように。
『北の島』。
噂と違わぬ異様な雰囲気に、倫子は知らず喉を鳴らした。