AEVE ENDING
瞬く睫毛が真っ直ぐに倫子を見ている。
(…同じだ。さっきの私と、同じ)
この体に抱く想いの全てを、相手に一欠片も残すことなく、伝えるために。
「―――叶うなら、君と僕が死ぬまで、共に」
額同士が触れて、冷えきった鼻先が触れて、やがて、唇の先が触れた。
曲がることを知らない真摯な瞳が、互いの姿を湾曲させて映し出している。
それが、心地良かった。
「…なにそれ、プロポーズかよ」
足の下をかさかさと葉が流れていく。
先にそれと受け取れるような言葉を吐いたのは自分のくせに。
そんな風に茶々を入れるしかできないのは、気を抜けば涙が溢れそうだからだ。
嬉しさなのか切なさなのか、或いは美しいこの男を繋いでしまった哀しさからくる涙なのかはわからない。
―――ただ沸き上がる情動に、流されてしまいそうで。
「…プロポーズなんて、僕はしない」
そんな不確かな約束より、ずっと浅ましく、残酷なくらいに堅く、破られない契りを、君としたい。
二人の間に空いた僅かな距離で、穏やかじゃない甘言が泳ぐ。
「…雲雀、」
もう一度触れた唇は優しかった。
けれどこれが噛みつく瞬間も、知っている。
「…海でキスした時のこと、思い出した」
思えば、あれが始まりだったのかもしれない。
穢れた海にひた浸かって、無様に貪りあうように求めあって。
予感は、今は純然な確信となっている。
「じゃあまた、この小さな森から始めようか」
そして確信は、芳しい現実となるのだ。
「それで、なにがしたいの?」
雲雀が笑う。
深い緑を背景にした柔らかな空気の中で。
「聞いてくれんの?」
針葉樹のかたい幹に凭れながら、内緒話をして。
そうしてふたりは、並びあって歩いていける。