AEVE ENDING
―――最近、二人は「秘密」を持っている。
「倫子さん?」
壁と見分けがつかない白い扉を開けても、そこには起き抜けのベッドと脱ぎ散らかされた服があるだけで、真鶸が探すその人はいなかった。
彼女の部屋に繋がっている兄の部屋にも、その姿はない。
「…すみません、アミさん。部屋にはいないみたいです」
後ろに控えていたアミを、真鶸が申し訳なさそうに振り返る。
アミは笑みを浮かべたまま、小さく首を振った。
「いいのよ。気配を探ったけどわからなかったから、雲雀くんと一緒なんだろうし」
―――最近、雲雀は倫子とよく行動を共にする。
実質的な「敵」が消えてから、二人の仲を引き裂く障害もなく―――強いて言えば、雲雀の狂信者達は未だに倫子を目の敵にしているが―――、確実にその仲を深めていた。
だからこそ、二人が一緒に行動することに問題はないのだが。
「…最近は頻繁ね。いなくなる度に気配を消したかと思うと、ふらりと出てくるんだから」
アミが苦笑する。
二人が姿を消す度になにをしているかなど深追いしたって無駄だ。
恋人達の時間を妄想するなど、下劣な行為と言える。
「この前なんて、奥田には内緒で街や荒野にも出たって」
「あ、僕も聞きました!街では、緑化ボランティアの方や植物学者の方とお知り合いになったって」
街には特に頻繁に出向くようになった気がする。
真鶸と三人で、両親から相続した邸を整理しに街へ行った頃からだ。
二人きりの時間を満喫しているのかと思いきや、そうして街に出たり荒野に出たりと、ピクニックのわりには妙な行き先を挙げる。
街に出ても、色々な意味で有名な雲雀を引き連れて歩けば目立ってデートどころではないし、荒野は荒野で、一体なにをしに行くのか想像もつかない。
しかも、二人がアミや真鶸に話すのはそれら行動のほんの一部で、秘密にしていることがまだあるようだった。
「…なに考えてんだか」
窓の外を眺めるアミの横顔を、真鶸は居たたまれない想いで見つめた。
彼女の胸に渦巻いている想いは、きっと真鶸と同じだから。
(…不安なんだ。二人が姿を消す度に、もう二度と戻ってこないような気がして―――)
だって彼らは、前よりずっと、同じ顔をして笑うから。