AEVE ENDING







紆余曲折を経てやっと部屋へと戻ると、真鶸がテラスの手すりに座り込んで拗ねていた。


時刻は既に四時過ぎ―――。
雲に覆われた外は暗さを増し、灯りがなくては少々勝手が悪くなっている。

波の音が静かに響き渡り、真鶸の背中の哀愁を掻き立てていた。


「まっ、真鶸さーん…?危ないよぉ……」

座っている場所が場所なので、窓際からそっと真鶸に呼び掛ける。
しかし雲雀はキッチンから紅茶を取ってくると、そのままテラスに足を踏み出した。

「…真鶸」

丁度お尻がはまる幅の手すりに腕をかけて、隣に座る真鶸に紅茶のカップを差し出す。
真鶸はそれを黙って受け取ると、やはり黙ったまま温かい紅茶を啜った。

それを見て、倫子はちぇっと唇を尖らせる。

(真鶸の扱いは、やっぱ雲雀が一番だなあ)

決して見るからに仲の良い兄弟ではないが、言葉少なに意思疎通を図るのは絆が深い証だ。

ちょっと悔しくなりながら、倫子も暗闇のなかで茶会を開く兄弟に加わることにした。
テラスに出る前に室内の照明を落とすと、途端に真っ暗闇になる。

それでも空の淡い灰色が反射して、雲の動きと波の起伏は見ることができた。


「曇ってるとはいえ、綺麗なもんだね」

奥に奥にと広がる空は、ずんずんと流れる雲に隙間なく覆われ、晴れる気配はない。
それでもそれだけの広さを誇る自然の景観は圧巻だ。

雲を払い除けた空は青いのだという。
一体、どんな青なのだろう―――。



「…どこに行ってたんですか」

倫子がぼんやりと景色を眺めていると、真鶸が小さな声で呟いた。

倫子はすぐさま答えようと口を開いたが、真鶸を挟んだ向こう側にいる雲雀に目で制される。

え、と聞き返す間もなく、真鶸がすぐさま口を開いた。



「…最近、お二人はこそこそしているみたいですが」

ぎゅ、と握られたカップの中の紅茶が、ゆらりと揺らめく。


(―――真鶸?)

その様子に、ただ拗ねているわけではないのだと頭を殴られたような気分になった。




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