AEVE ENDING







暗い闇のなかにさざめく波の音が、妙に耳につく。
そんな中で、倫子も雲雀もじ、と真鶸の言葉を待つ。


「…危ないことをしているんじゃないですよね」

真鶸の視線は、随分と下にある波間を漂っていた。
その波の揺れる様はまるで真鶸の心のようだ。

置いていかれたこどものようで、けれど寂しいと泣き叫ぶほどこどもではないと自覚している。

―――その葛藤。



「してないよ」

真鶸のやっとの問い掛けに、雲雀は事も無げに答えた。

その答えに、真鶸の手がぴくりと震える。


「本当ですか?」

出した声も同様に震えていて、その真摯さが倫子には妙に痛い。
けれど雲雀は、相変わらずのしれとした顔で続けた。


「本当だよ。今日だって、砂浜で橘と」
「うわあ!」

何を言うのかと、慌てて大声で遮る。
いたいけな真鶸の前で教育上よろしくないことばかりする兄には、その類いの前科が沢山ある。

(…っお前な、いい加減にしろよ)
(何故?正直に外で猥褻な行為をしてましたって言わなきゃ誤魔化してるみたいだよ)
(そっちのほうが言い訳がましいわ!いいからもう黙れ!)

大声を上げて話を遮った倫子に、真鶸の訝しげな視線が向けられる。
下手に心配をさせてはいけないと、倫子はそれを真面目から受けて、大真面目に続けた。

「…とにかく、危ないことなんか、なにひとつしてないよ」

これは事実だ。
「内緒」にしていることはあっても、危険を含むことじゃない。



「約束する、真鶸」


―――心配をさせている。

アミに言われずともわかっていたことだった。

なによりアダムとして正規の道を歩めない倫子が「進路」を決めたことで、真鶸に秘密を抱えることになってしまった。

それは、はなから心配させないための「秘密」であったのに。

そして、それを雲雀にも強いてしまったことへの自覚も申し訳なさもある。


「…信じて欲しい」

真鶸の目に、じわりと涙が浮いた。
あ、と思った時には抱き締められ、倫子さん、と震える声で呼ばれる。




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