AEVE ENDING
「ごめんなさい、わかってるんです、ごめんなさい」
小さな腕が倫子の洗濯板のような体をぎゅうと抱き締めて、ひくひくと泣きじゃくった。
心優しい真鶸に追求させてしまうほど心配を掛けていたとは自分達が情けない。
「あんたが謝ることじゃないよ。ごめんね、ありがとう」
小さな頭をよしよしと撫でながら、倫子は窺うように視線を上げた。
真鶸の頭越しに見た雲雀は、遠くに視線をやりながらも口許では小さな笑みを作っている。
腕の中のこの優しい生き物が愛しかった。
―――あの修羅でさえ、君が可愛くて可愛くて仕方がないのだ。
私達の真鶸。
「…紅茶が冷めるよ」
投げ出したカップを差し出されて、真鶸はようやく倫子の肩から顔を上げた。
「ごめんなさい…」
恥ずかしそうに俯く真鶸の可愛らしい顔に、倫子は思わずにやけてしまう。
家族に向けるような暖かな愛しさが胸を占めて、だらしない顔になった。
「よだれ」
それを雲雀に窘められて、じゅるりと顔を整えた。
―――ザザ…ン…。
そのまま沈黙が訪れて、雲雀と真鶸は冷めかけた紅茶を啜る。
自分のものは用意してもらえなかった倫子は、ただぼんやりと空を見上げていた。
ザ…ザザ…ン……。
静かな世界に、寄せては返す波の音だけが優しい。
流れる雲の凹凸が、なにかを掻き立てるようにその形を変えては融けていった。
(…静かだな)
波は、この星が生きている証なのだという。
この廃れきった、けれど闇が落ちればどこか穏やかでひそやかな世界を確かめることができるのは、自分の心が満たされて凪いでいるからかもしれない。
(―――こんな世界、なくなっちゃえばいいって、ずっと考えていたのにな)
大切な人が、こんな私を好きだと言ってくれる人が、共に歩いてくれる人が、いる。
それだけで、世界は煌めいてしまうのだろうか。
(我ながら単純だなあ)
そして単純ついでに、願うのだ。
―――私の大切な人達が、青空の下で、太陽の下で笑っていてくれたら、と。