AEVE ENDING





観客達が次々と歓喜の声を上げ、初めて見る雲ひとつない澄んだ青空に涙を流す者も出てきた。

それを眺め、嬉しげに笑っている倫子を雲雀は一瞥する。


「良かったね、成功して」
「うん、あんたのお陰だ」
「…君も頑張ったんじゃない?それなりに」
「褒めるなら素直に褒めろよ」

そんな軽口を叩きながら、倫子と雲雀も天を見上げた。

胸に沁みる純粋な青の天上は、なによりも美しく、そこにそれがあるだけで、生きていると実感できる。

この腐敗した世界に、それでも暗雲の向こう側には希望が広がっているのだ。

込み上げるなにかが、確かに、そこに在る。



(―――あぁ、世界はこんなにも、麗しいのだ)


倫子の心の中の桐生が、嬉しげに笑った気がした。






「…そろそろ時間だよ」

雲雀が倫子の頬を撫で、そっと背中を後押しする。
それを受けて、倫子は緩んでいた目尻を無意識に引き締めた。

眼球に響く「青」が、美しくも、痛い。


―――そう、秘め事は、もうひとつあるのだ。





「倫子、降りてきなさい。一緒に飲みましょう」

既に出来上がっているササリが、下から倫子を呼ぶ。
そのササリに、倫子は嬉しげに笑いかけた。



「―――ササリ」

それはたわわに浮かぶ、涙を音にしたような声だった。

その凜とした悲しげな声が、ざわめく皆の言葉を、魔法のように途絶えさせる。
それを見て、倫子は微笑みを浮かべたまま続けた。


「…ぐちゃぐちゃになった、醜い私を毛嫌いもせずに治療してくれてありがとう。あの研究棟で、あんなに優しく笑いかけてくれたの、ササリが初めてだった」

終わりには、今にも泣き出しそうな笑みで、倫子はそう声を張り上げた。


「髪が抜けた頭を、女の子だからって、きれいに結ってくれてありがとう。…お母さんみたいで、お姉ちゃんみたいで、大好き」


その言葉は、まるで―――。



「…倫子?」

笑っていたササリから、すとんと笑みが抜ける。

それを笑みを浮かべたままじっと見て、次には武藤の腕に抱かれている朝比奈に目をやった。

呆然とするその顔に、やはり倫子は笑う。





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