AEVE ENDING
「―――朝比奈、なんだかんだ言って、あんたカッコ良かったよ。まぁ、痛い目にも遭ったけど、イヴの私に真正面からぶつかってきてくれたあんたには、感謝してる。武藤と仲良くやりなよ」
ケラケラとからかったかと思えば、次にはロビンに移る視線。
まるであちらこちらを旅しては去る、旅人のような、明け透けな視線。
ロビンは生ハムサラダを手にしたまま、やはり固まっている。
「…ロビン、私が馬鹿にされる度、私の代わりに怒ってくれてありがとう。…いつか、タイマンの決着つけようよ」
倫子のその言葉に、はっと我に返ったロビンは力強く頷いた。
言いたいことはまだまだ沢山あったのに、何故か声が出なかった。
「…倫子さ、」
異様な雰囲気だった。
静かで、柔らかで、けれど、どこか寂しげで。
思わず、呼びかけるように真鶸が声を上げた。
おかしい、と思う。
明らかに、様子がおかしかった。
「―――真鶸」
焦燥に駆られている弟の名を呼んだのは、兄である雲雀だった。
兄に呼ばれ、真鶸は思わず呼吸を止める。
そんな弟の姿に、雲雀は少しの苦笑を口許に含め、その目尻をかつてないほど緩めた。
「真鶸」
そうして倫子に呼ばれ、真鶸は今にも泣き出しそうな顔を浮かべてしまった。
敏感な真鶸は、なにかしら感じとっている。
いつかの、空を見上げて話したあの日が、ずっとずっと遠くに感じられた。
―――あぁ、まさか。
「真鶸、私、あんたが大好き。本当の弟みたいに、かわいくて、一緒にいるの楽しかった」
それはもう、嬉しそうな笑みで。
真鶸が大好きな、「倫子さん」の笑顔で。
「いつも気遣ってくれてありがとう。いつも美味しい紅茶を淹れてくれてありがとう。いつも、私に笑いかけてくれて、ありがとう」
その暖かさに、いつも救われていたと。
彼女は、そう言うのだ。
優しくて暖かかったのは、寧ろ彼女のほうであるのに。