AEVE ENDING
(あの剣圧を受けて、微動だにしない)
力のセンスも集中力も、その細腕の筋力すら最高のバランスで成り立っている。
踏み込む角度、攻防の意思、止(とど)めた片脚の重心。
すべて計算されていながら、保身には回らないその凶暴な性質。
かつて出逢ったことのない逸材を前に、真醍は思わず、タノシイと咥内で呟いていた。
その隙を逃さず、雲雀の右腕が動く。
受け止めていた刀を鷲掴むことで、真醍の動きを制した。
―――ヒュッ。
刀を引いて引き寄せた真醍の脇腹に、雲雀の右ストレートがクリーンヒットする。
しかも拳が真醍の腹に入る瞬間、掴んでいた刀を離した。
そうなれば真醍は衝撃に従い、後ろへ吹き飛ぶしかない。
あっさりとふっ飛んだ体が汚染された海に落ちる―──寸前で、真醍は手にしていた刀を砂浜に突き刺しブレーキを掛ける。
その反動で汚水ダイブは免れたが、雲雀は追随を許さなかった。
体勢を立て直そうとする真醍の間合いに飛び込む―――。
「…っ」
一瞬、の間にそれらは行われた。
正直、目で追うことさえ困難な速さで。
訓練を受けていない者なら、きっと残像すら視えなかったことだろう。
(―――強い…)
一瞬。
今の一瞬を視れば、解る。
対峙していた時、二人は互角に見えた。
少なくとも、対峙していた時は。
「…いいね」
雲雀が嗤う。
心底から、愉快だと。
長い睫毛が凶悪なリズムに合わせて瞬く度、流れ込んでくる感情。
(…悦んでやがる)
「最初の一撃。常人なら真っ二つだったよ」
にこやかな顔で物騒なことを。
(…真っ二つかよ。性格ワリィ)
思わず内心で突っ込んでしまった。
「おっかねぇなあ」
それに対して、波に膝を着けたままの真醍がにやりとほくそ笑む。
折れた、と雲雀に殴られた脇腹を左手で抑えて。
「いーい力だべ」
真醍という男も愉しそうに笑った。
血で血を洗い、そこに生きる男達の洗練された眼が、合わせて四つ。
「…どうも」
膝を着いたままそんなことを言う真醍を、雲雀は美しい微笑を浮かべたまま見下していた。
通じ合うなにかを見定めて、認め合うように。