AEVE ENDING
「…そうかぃ」
刀を支えに立ち上がった真醍は、負傷しているとは思えない立ち姿を雲雀の前に披露する。
まだまだこちらも負けてはいないと言いたげで、その表情には余裕すらあった。
(肋が折れてるんなら、じっとしとけよ)
内臓に刺さって死んだらどうするのつもりなのか、あの馬鹿は。
こちらの要らぬ心配を余所に、男達は再び砂の上で疾走し始めた。
「聞きたい事がある」
「オゥ、なんでもこいや」
ざざざざ。
砂浜を掛ける二人は、会話しながらも隙のない攻防を繰り返している。
全ての攻撃が致命傷を狙い、正に命がけの攻防戦のなかで、随分と余裕だ。
「何故、君がただ一人で出てくるの?仮にも頭首だろうに」
雲雀が信じられない、この馬鹿、と言いたげに首を傾げた。
こんな馬鹿が頭首だなんてもっと信じられないけど、とも付け足して。
「バカヤロウ。頭首だからこそだ。上の者は下の者を守り支える義務がある」
雲雀の問いに、真醍は真っ直ぐ目を視て応えたが、暇なく動き続けている腕や脚は、一分の隙もなく雲雀を狙い続けている。
「ご立派だね。けれど上の者は、下の者の為にも生き残らなくてはならない」
君のような漢なら、尚更ね。
雲雀が囁くように笑みを零した。
真醍という男を気に入ったらしい。
(好敵手ってやつ?)
目の前で凶悪に游ぶ男が二人。
まるで互いの腕試しと言わんばかりに、「殺し合い」ができる人種。
―――だからこそ、決着は早々に着きそうもなかった。
(あの城の中でも探ってこようか…)
こうして岩影に隠れている時間が勿体無い。
岩影から少し身を乗り出して上を仰ぎみてみる。
視界の空半分を覆う暗い城は、まるで異邦人を拒否するかのように唸る風鳴りが響き渡っていた。
夜になる前に、せめて地理だけでも把握しておきたいところである。
(朝比奈達も心配だ。あの猿が本当に単独行動かなんて、信用できない)
雲雀を見遣れば、真醍の相手に夢中になっているようだった。
今なら───。
「橘」
ギクリ。
岩影から足を踏み出した途端、鈴の鳴るような声がピーンと糸を張ったように鼓膜を叩く。
「…え、」
───途端、体が動かなくなった。