AEVE ENDING
自分のテリトリーを土足で踏み荒らされたも同じ。
本来ならば、アダムの能力を使って意識や身体の自由を侵す行為は犯罪だ。
世界各国の箱舟でも、禁止事項とされている。
普段、小うるさく言われていないのは、それを出来るアダム候補生がそうそう居ないからであって、暗黙の許可というわけでは、決してない。
(…あの傲慢チキが御法度を畏れるわきゃないけど)
ドクドクと未だ脈打つ心臓を抑え、倫子は雲雀から視線を逸らした。
最悪の気分だった。
自身を踏みにじられたことに対して不快なのは勿論。
(その圧力すら、赦してしまう)
カリスマ、なんて言葉じゃ片付かない。
あの男の気位の高さと身勝手さは、神と同等──―或いはそれ以上だ。
(…あぁ、どうか神様、あんな罪深い男と同じに扱ったことをお許し下さい)
カミサマなんて信じちゃいねえけど。
岩影で淡い空を見上げた倫子の耳に、馬鹿でかい声が届いたのはそのすぐ後だった。
「お前等の目的はなんだ!」
先程見せていた阿呆面はどこへやら。
真醍は鋭い表情をその顔に乗せ、雲雀に唸っていた。
「さぁね」
真剣な真醍のそれを、雲雀は肩を竦めてかわす。
するすると、まるで踊っているように攻防を繰り返しながら、真醍は雲雀のその態度に苛立ちっているようだった。
「大陸の人間が、この島にどれほどの血を流したか!」
真醍の言葉は、倫子にとって寝耳に水のものだった。
雲雀は視線だけを真醍に落とし、一薙ぎされた刀から身を翻す。
「…国土占領を巡る、侵略闘争」
それは、本土で暮らす国民達の耳には入らない筈の情報だった。
「緑地が残るこの島の土壌を研究対象として、政府の環境保護省から独立国「北の島」を国有化とする政策が敢行された」
そんな情報を何故、一アダム候補生の雲雀が知っているのか―――なんてことは、今は大した問題じゃない。
それが「事実」であるということが、「問題」なのだ。