AEVE ENDING
「人間狩り…?」
雲雀が動きを止め、同じく立ち尽くしていた真醍を見た。
聞き慣れない単語に、不審を抱いたらしい。
「───なにが目的か知らねえが、もうこの島の民はひとり足りとも、てめぇ等にはやらねぇ」
俯いていた真醍の眼があげられて、鋭く底光りする。
雲雀は真正面からそれを受け止め、警戒を解かないまま、しかし真醍の話に耳を貸すことにした。
「俺の親父が頭首の時、奴らは八人の島民を本土に連れ帰った。幼子や女、男、なんの区別もなく、連れて行きやがったんだ」
憎々しげに吐き捨てた真醍を前に、雲雀は訝しげに眉を顰める。
この目の前の男はなにを話している?
自分が預かり知らぬ所で、この男は闘志を燃やしているのだ。
「―――答えろ」
真醍が刀を構え直し、雲雀にその鋭利な先を向ける。
その刀身より、きっとずっと重いであろう、その切っ先。
「連れ帰ったこの島の人間に、一体、なにをした」
真醍の良く通る声は、鬱蒼とした島の森によく響いた。
怪しげな空はまだ爛れずに、危うげな平穏を保ったまま動かない。
けれどそんなことは、なんの慰めにもならないのだ。
今、佇むこの浜には、緊迫した空気が漂っている。
しかし雲雀は、沈黙を破らない。
まるでなにやら思案するかの如く寄せられた雲雀の愁眉に、真醍が求める答えは期待できそうもなかった。
真醍が再び声を上げようと口を開けた───その時。
「…実験体だよ」
馴染まない女の声が、張り詰めていた空気を一気に打ち破る。
それはただ一定調に発せられて、危うく聞き落としてしまうところだった。
「…橘」
沈黙を守っていた雲雀が、声の主を呼ぶ。
真醍が視線を移せば、自分達が闘っている最中、ずっと岩影に潜んでいた少女が浜まで歩み出て立っていた。
引き寄せられるように脚を踏み出した姿で、まるで枯れた枝のようにか細い。
「実験体…?」
倫子の言葉を、真醍は信じられないと言いたげに繰り返した。
「…政府間のなかでも、秘密裏に行われた人体実験の、モルモットにされたんだと思う」
「…きっともう、生きていない。」
期待してなかったと思うけど。