AEVE ENDING
「オイ…」
今はそんな場合じゃねえんだ。
下がれ、と真醍が口にする前に、爺が先手をとった。
「───話は全て把握済みです。…主ら、やはり目的は人間狩りだな」
銃を突きつけられたまま微動だにしない、動揺してもいない雲雀に、爺がかつてない気迫で言い募る。
「我々にも生活があるのを知っていながら、実験用の鼠と称し、我らが同胞を奪った恨み、忘れはせん」
ギラリと眼光鋭く──とても七十過ぎのジジイには見えない激情を雲雀に叩きつけ、爺は空いた左手を軽く上げた。
「再びこの島に足を踏み入れたこと─―─」
それを合図に、後ろに待機していた大男がひとり前に進み出る。
その手には。
「この娘の言葉が何よりの証。───我らが同胞を、貴様等アダムの実験材料になどさせぬ!」
髪を鷲掴みされ、そこを支点に吊られるように持たれた倫子は、その痛みに顔を歪めている。
「…本物の研究員がそう簡単に自ら自分の立場を危うくするか、この耄碌ジジイ」
しかしその痛ましげな表情とは裏腹に、随分と気が強い。
舌打ち混じりにそう吐き出した倫子は、爺を苛立たしげに見据えていた。
そんな倫子を、雲雀はただ、黙って眺めている。
(……助けようともしねぇ。本当に、仲間なのか?)
女が雲雀に助けを求める気配もない。
「ならば何故、貴様は「人間狩り」のことを知っていた。…あれは機密事項なのだろう?」
爺の怒りの矛先が、拘束された倫子に変わる。
ぎらりと皺に埋もれた眼球が光ったかと思えば、握っていた火縄の猟銃を掲げた。
「ぃ、…ッ」
ガチャリ。
銃口をその頬にめり込ませ、跪くように膝をついた倫子を真上から見下す。
その見た目は、内情は知っていても―――。
(…なんか、俺らが悪者っぽい)
「───相手を追いつめることに慣れてるね。何者?」
倫子に銃が突きつけられていることには頓着しないらしい雲雀がそう首を傾げた。
因みに雲雀にも銃は突きつけられたままだ。
「俺のオヤジの代は参謀だった。専攻は拷問」
「…あぁ、そう」
聞いておきながらさして興味もなさそうな声が返ってくる。
そのまま黙ってしまったので、真醍はつい言葉を続けてしまった。
「ていうか、…助けねぇの?」
少しばかり女が不憫になっていたこともあり、つい口にしたのはそんな言葉。