AEVE ENDING
「なにを?」
そして返ってきた返事におったまげた。扱いが雑すぎる。
(なにをって…、女を、だろ?)
「自分が撒いた種だもの。僕にも解らないところがあるし、まぁせいぜい、頑張って貰うつもり」
うわ、コイツ最低。
真醍と雲雀が群衆から離れた位置でそんな会話を繰り広げている間に、倫子は殴られていた。
それに気付いた真醍が慌ててそちらに気を向ける。
口の中を切ったらしい。
口端を流れた赤い糸が顎を伝う前に、倫子は自分の舌でそれを拭う。
手足を拘束され、他で拭うことが出来なかったからだ。
「正直に云え。お前達の目的は、人間狩りであろう?何人引き連れてやって来た?再び島民を奪い去って、なにを施すつもりか」
爺は、それはそれは冷徹な眼で倫子を見ている。
過去の「血」を思い返せば、当然の剣幕だった。
未だ詰問の範囲であろう光景だが、対象が幼げの残る倫子なだけに、痛々しい。
しかもその眼が。
「なんだその生意気な眼は!」
なもんだから、再び殴られてしまう。
今度は脳天。グラグラと目眩を感じたのか、暫し俯いたまま動かない。
けれど再び顔を上げて、殺意と狂気をない交ぜにした髪の間から爺を睨みつける、その眼は。
「───つええなぁ」
怖いもの知らず、なんてレベルじゃない。
気が強い、頑固でもなく、ただ、純粋に「慣れている」。
「お前の仲間、随分と暴力に慣れてやがんのな」
二発殴られて一言も悲鳴も上げない女なんて、あまりお目にかかる機会はない。
雲雀は雲雀で、銃を突き付けられながら、じ、と倫子を見つめていた。
今度は眺める、なんて生温いもんじゃなく、まるで見透かすように。
「本島のアダムって痛覚ねぇの?」
軽口を叩けば。
「そんなわけないでしょ。……でも、そうだね、慣れてるみたいだ」
軽口が返ってきて、けれどまるでなにかを考え込むような、口調。
「…慣れてる?一体何に」
「───さぁね」
訝しげな顔を向けても、雲雀はただ詰まらなそうな表情しか浮かべない。