AEVE ENDING
「―――橘」
聞き覚えのある、澄んだ声。
底からギシリと軋み、ゆっくりと浮上した意識に、は、と息を吐く。
「…なに」
気を失っていたらしい。
撲られた唇が、ジリジリと痛い。
(情けない…。二発殴られた程度で)
「起きて」
雲雀が立っていた。
その凛とした形姿が、まるで強烈な光源のように眼を焼く。
「起きてる…」
急激に引き戻された意識は、未だはっきりと定まらない。
膝は相変わらず砂浜に着いたまま。
俯く視界には、いきなり現れたクソジジイ共の足も見える。
(―――実験体八名…。あぁ、私がおかしくなったあん時の、)
ということは、「今」はもう、実験は続けられていないというわけだ。
(あぁ、なら、良かった…)
「橘」
バチィッ!
「ぃっ…」
「起きて」
容赦ないビンタをかまされて、やっと意識がはっきりする。
痛みに顔を歪めたまま顔を上げれば、やはり諸悪の根元。
「…諸悪の根元って、誰が?」
「おめえだよ!この間抜け!」
いちいち本気で殴ってくるからタチが悪い。なにより今は傷に響く。
「助けてもらっといてそれはないんじゃないの?」
「ホザケ!痛いもんは痛いんだよ!大体、助けて…───、え…」
視界を占めていた雲雀の微笑の片隅。
真醍──と、先程まで銃を構えていたその他。
けれど、様子がおかしい。
先程と確かに同じ配置であり、なにひとつ変わっていない筈なのに、この違和感はなんだ。
近場に立つ老齢の男をじ、と観察すれば、ダラダラと冷や汗を掻きながらその動きを止めている。
倫子を撲ろうと腕を振り上げた状態で、倫子に向き合っているのだが。
まるで時間が止まってしまったみたいに―――。
「あんた、なにを」
こんなことをするヤツは、ひとりしか思い当たらない。
「単純な人間は「止め」やすいね」
含むような微笑がにぃと笑う。
腹立たしいまでに綺麗に纏まったその相貌。
(やっぱ緊縛…どーゆー趣味だよ、このエスエムスズメ)
ついさっき、自分にも施された緊縛の力。それも、複数一片に。