AEVE ENDING
(どこまで未知数なんだ、こいつ…)
この「雲雀」、という男。
見れば、なんの力も施していないらしい真醍となにやら話をしている。
(見てくれがきれいなだけじゃないっつーのが…)
天上の神様は史上最悪な男に二物三物四物もお与えなさったのだ。
「──―そういうわけだから、僕らは得体の知れない研究員なんかじゃない。箱舟に管轄されている一介のの生徒だよ」
あんたみたいな化け物が一生徒だなんて簡単に信じられるか。
内心毒を吐くが、事情説明をしてくれているならありがたい。
倫子にとって、あんなキチガイ共と勘違いされて拷問なんかされては、屈辱以外のなにものでもなかった。
倫子は立ち上がると、咥内に溜まった唾液と血液を吐き出した。
殴られた口許が腫れて、熱を持っている。
「…最悪」
不細工が更に不細工になった。
なんとはなしに見上げた空は、相変わらず雨雲。雨。
「…橘」
ピリピリと地味に痛む頬を押さえ、名を呼ぶ雲雀の方へと向かう。
背後には、いまだ固められたままの島の人間達。精巧な蝋人形が置いてあるようで不気味だった。
「よーぅ、タチバナちゃん、大丈夫かぁ」
近付けば、真醍が顔を覗きこんできた。
なにが大丈夫かぁ、だ。
助ける素振りも見せなかったくせに。
苛立ち紛れに真醍をひと睨みした倫子の顎を、雲雀が横から乱暴に掴み上げる。
「っ、」
ちょ、なにすんの。
腫れてひきつっている皮膚が痛い。
「頬、見せて」
言われて、顎をしなやかな枝のような指で固定されて腫れた口許を凝視された。
ちょ、顔、ちか!
「いいって。大した事ないから」
(そういえばこいつ、さっき思い切り平手喰らわしやがったよな…)
「なにもしないよ」
「さっき叩いたじゃん」
「君が起きないから」
「だからって怪我人を殴るかフツー!」
叫ぶと、ぴしりと弾けた。
「…っ」
なにがって、腫れて切れかかってた唇が!
「…ほら、大人しくして」
まるで心配などしていないような顔をして、倫子の傷口を辿っていく。
それは随分と丁寧な所作で、育ちの良さが形になっているような動きだった。
それでも釈然としなくて、倫子は首を傾けさせられながらぶっすりと海の向こう側を睨み付ける。