AEVE ENDING
「……雲雀」
顎を固定する指先は、か細く繊細なくせに、力強い。
雲雀の長い睫毛が視界の端にちらちらと映り込んで、まるでこの世で最も繊細な蟲が跳ねているようだった。
「なにを企んでるの」
できる限りの無表情を湛えてそう言えば、雲雀は可笑しそうに眼を煌めかせた。
口元は微塵も動かないから、笑ったわけではないけれど。
「おかしなこと、言うね。パートナーの心配をするのがそんなにおかしなこと?」
「そうだべ、タチバナちゃんよぉ。冷徹漢に見えたけど、実は心優しかったんじゃね?ギャップ萌え」
「猿は黙ってろ」
どうしてお前が入ってくる。
割り込み方まで奥田と似ていて、苛、とこめかみが震えた。
「あ、ちょ、俺、間違えてた!冷徹漢って実はおまえだわ!」
「バナナの木でも探してこいよ猿」
「しかもナチュラルに猿扱い!?」
あーあー。話がおかしな方向へ流れてってないか。
「…とにかく、私達は授業の一環としてこの島に来たんだから、危害を加えられる謂われは───」
この島を仕切る男に事情を知ってもらえば、二日間を生き残るなんて造作ない。
倫子も朝比奈も、大した危険には曝されないだろう。
(この際、男共はどうでもいいとして)
「…あー」
私の言葉に、真醍が困ったように眉尻を下げた。なに、その顔。
「…私等の他にあと四人、アダムが島に来てる。島の人間に事情を説明して、彼らに危害わ加えないように───」
ポツリ。雨が一粒、私の頬を撫でた。
あぁ、降ってきてしまった。
(この島、敷地の多くがジャングルだから)
朝比奈達が心配だ。
今はまだ小雨だが、すぐに激しくなるだろう。
この天候のなか、ジャングルで放浪なんかしたら崖崩れや地滑りに巻き込まれる可能性もなくはない。
(あの馬鹿共が、島民の目を避けるためにジャングルに入るのは目に見えてる)
見る限り、ジャングルの深さは相当なもの。
城のような鉄筋と絡み合う様子から、鉄筋のエリアもかなりの広範囲だろう。