AEVE ENDING

「朝比奈ぁ」

鬱蒼とした木々の間を縫い、武藤は前を行く朝比奈雛を呼んだ。
朝比奈は先程から歩みを止めようともせず、ただひたすら木々を掻い潜りながら先に進んでいる。

「なんですの」

武藤の呼び掛けに、やはり先刻と同じように振り向きもせず答える。

「いい加減、機嫌直せよ。苛つかれてっとこっちが疲れる」
「…べ、別に、怒ってなどいません」

ガサガサと枝葉を掻き分ける朝比奈は、やはり振り向かない。
頑固で協調性を知らないパートナーの態度に、武藤は小さく溜め息を吐いた。

「いくら雲雀さんがイヴを相手にしたからって、そんなキレるようなことじゃねーじゃん」

意趣返しと言わんばかりにわざとそう吐き捨てた武藤に、まんまと引っかかった朝比奈の肩が神経質そうに震えた。

(雲雀雲雀って、馬鹿のひとつ覚えみたいに)

まるで幼少からの口癖のように繰り出されるその名前がいい加減煩わしくなっていた武藤は、更に続けた。

「大体、雲雀さんがあんな役立たずに入れ込むわけねーんだから…」

あんな口も素行も悪い、田舎モン丸出しの「イヴ」を、まさか「修羅」が本気で相手にしていると思っているのだろうか。

「…お黙りなさい」

怒りにたぎる朝比奈が、震える声で言い放つ。
互いに重い空気を漂わせたまま、しかし足は止めない。
道ともいえない山道を辿り、一体自分達はどこへ向かっているのかすら解らない。

「…そういや、さっき妙にでかい声が聞こえたな。アレ、誰が見つかったんだと思う？」

雲雀と落ちこぼれ、鈴木と原田と別れてすぐの時だったはずだ。
武藤はしれっと話題を変えた。

「…雲雀様じゃないことだけは確かですわ」
「でも雲雀さんにはあの役立たずが付いてる。可能性なくねぇぞ」

しかしなんだかんだと意地の悪いことを言ってしまう自分の性格に、武藤は我ながら呆れた。

「例え島民に見つかったとしても、雲雀様が人間に負けるわけはございません」

まぁ、確かに。例えあの足手まといが人質にされたとしても、犠牲を省みる男じゃない。
そうこう話をしているうちに、雨足は相当な強さになってきていた。
鬱蒼とした葉の重なりがバチバチと音を立てて、ジャングル全体が怪しい雰囲気を醸し出している。