AEVE ENDING
「───地下基地?」
雲雀が美しい曲線を描く眉をく、と寄せた。
雨水が滴る前髪が白磁の肌に張り付いて、まるで妖艶な蛇のように見せている。
―――結局、あの浜辺を後にして向かったのは、真醍を主に据える例の「城」だった。
雲雀の力で緊縛されていた島民達も無事に解放されたのだが、全員、雲雀への反感を通り越して恐怖へと直結したらしい。
倫子には相も変わらず酷い皮肉をぶつけるが、雲雀には主を相手にするかのように頭を下げる始末。
老中という役職に就いている爺に至っては情けを掛けるなら腹を切るとかなんとかわけの解らないことを喚きたてた。
城はまるで蟻塚のように何層も重ねられた建築物で構成されていて、錆び付いた鉄筋コンクリートの剥き出しの肌がひやりと肌を刺す。
多種多様な植物と複雑に絡み合う鉄筋のそれは、民達が生活する場でもあり、「城」というよりは「居住区」に近かった。
聞けば、この「城」で生活している島民は約百八名。
彼ら全員が暮らす寝床ということもあり、やはり相当な広さだ。
そんな城の一室に、倫子と雲雀は通されている。
そして今、目の前に広げられたのは島の全体図───。
普通の地図と違うところと言えば、平面図ではなく立体図なことろだろう。
城の天辺からその地下まで、深さ高さ奥行き、幅、用途目的などが事細かに測られた模型は、蟻塚形式のこの「城」にはもってこいの「地図」だ。
「…なにこの島、地上より地下のほうが深いじゃん」
そしてその地図を見た倫子の第一声がそれだった。
地上から城の天上までの高さより、地下へ向かって張り巡らされている幾重の層のほうが深い。
「…この島は、数年前まで地下空間が島民達の生活の場だったんだ。それがある日、侵攻してきた本島の奴らに地上へと追い出された」
地図を眺めながら、真醍が憎々しげに呟く。
「奴ら?」
雲雀が横目で真醍を見遣り、促す。
未知の独立国である「北の島」の歴史は、長い間、彼らだけのものだったのだろう。
(北の島でも色々あるみたいだね)
思わず雲雀にテレパスを飛ばしてしまったら。
(…ややこしい事になりそう)
そう返ってきた。
本当にその通りだ。