AEVE ENDING
「…手ぇ出したくても、出せねぇんだよ。拐われてった島民を、いまだ人質にしてやがるんだ」
それは長い間、痼(しこり)のように心臓の動きを躊躇させる。
「それで、こんな膠着状態を何年も?」
「まぁな。確か、二年少し、だべ。俺が皇位を継いだのも、そのすぐ後だ」
(…だろうね)
真醍と雲雀の話を耳に入れつつ、倫子は密かに相槌を打った。
二年と少し前、「私」は確かに「あの姿」で居たから。
自分の記憶とそれらの悲劇の符合が一致していくことが、なんだかとても悲しかった。
「―――お前等の仲間がアダムだとしても、研究員達は完全にイカれちまってる。幾らアダムの狂信者とはいえ、アダムには無害ってわけじゃねぇよ」
真醍が肩を竦めて言った。
『アダムとはいえ、害がないとは言いきれない―――』
その通りだった。
(…多分、サンプルとして一人くらいは幽閉される)
考えていくと、どうしたって最悪な結末に結び付いてしまう。
口内の血の臭いも手伝って、気分が悪くなってきた。
思わず、窓枠に腰掛けて項垂れるように息を吐く。
「―――橘」
雲雀が真醍に向き直ったまま、倫子を呼んだ。
「…なに」
今は構って欲しくないと、心底からうんざりする。
「行くよ」
「…どこに?」
唐突な言葉に、思わず聞き返していた。
「ここ」
倫子の言葉に、雲雀がス、と地図を指さす。
形のいい爪の先には、たったいま話題に上った地下世界部分の模型。
真醍も目を丸くして、そんな雲雀を見ている。