AEVE ENDING
「―――着いたよ」
内臓を縦に揺すられ続けたような気持ち悪い感覚に酔って、思いきり目と口を閉じていた倫子の耳元で雲雀はそう囁く。
腕の中の小さい体は、ぐったりと雲雀にもたれ掛かったまま動かない。
「……どこに」
しかし憔悴しきった声が漏れたので、意識はあるらしかった。
「地下世界」
言えば、倫子は雲雀の肩口に埋めていた顔をゆっくりと上げた。
頭痛が酷い。
歪んだ表情を浮かべつつ、額を右手で押さながらゆっくりと周囲を見渡した。
そこは、壁も天井も床も、四方が石畳の空間──光のない世界。
しかしその暗闇のなかで、はっきりと存在を主張するもの――牢らしきものが奥に見えた。
「人質」が本当に「人質」の役目を果たしているなら、真醍の言っていた拐われた島民達はそこに幽閉されているだろう。
そちらに視線を置いたまま、倫子はゆっくりと口を開く。
「…真醍は」
「暫し留守番」
(…可哀想なやつ。今頃、急に消えたうちらに目ぇひん剥いてるな)
そんなことを考えながら、雲雀が先に話していた「段取り」を反芻する。
「…人質が先だっけ」
「そうだよ」
ふらつく足取りで、牢へと向かう。
暗闇は鮮やかに闇色を誇示し、倫子の視界を阻んでいた。
足取りが、遅い。
まるで足枷を課せられているように。
「…なにを、隠しているの」
それに合わせるでもなく前を行っていた雲雀に、倫子の歩調も少しだけ速まった。
呟いた声が、周囲に反射して無駄に反響する。
冷たい空気は何処か停滞気味に濁り、清廉な呼吸を邪魔していた。
「…なにが」
その汚濁された空気を切り裂く、小さいが、確固とした声。
顔は見えないが、その空気は手に取るように。
ねぇ、君は。
「全身で、なにかを警戒してる」
或いは脅えているのか。
じわりと大気に滲む倫子の感情が、雲雀の肌に直に纏わりついていた。