AEVE ENDING
「…こんな気味悪いところに来て、警戒しない方がおかしい」
倫子は顔を逸らしながらもっともらしく言った。
「…そう、追求はしないであげる」
嘘、と突きつけるのは簡単だけれど。
当たり障りのない返答でその場を回避した倫子を言外に責め立て、雲雀はただ先に進んだ。
地下水でも漏れてきているのか、石畳の床にはうっすらと水が張っていて、ひたひたと靴の裏を濡らす。
(腐臭はしないし…、死体があるわけじゃないのか)
てっきり拐われた島民達は、既に殺されているものだとばかり思っていた。
だからか。停滞はしているが別段変わったところのないこの空気には、少々驚く。
(なにせ行きがかり上、透視もしないで来てしまったし)
今この時点で透視すれば済む話だが、既に敵地の中に足を踏み入れている。今更したところであまり意味はない気がする。
進めば見れるものを偵察など無駄だし、敵の陣地に踏み込んでから慎重になるなど、最早、手遅れだ。
下手にセコい真似をして危険から逃れられるとも思わなかった。
なにより雲雀がいる安心感がそれをさせる。
「雲雀」
背後から名を呼ぶ。
(…僕の名前を、そのふてぶてしい声色で呼び捨てるのは君くらいだよ、橘)
「監視カメラ、だよね?あれ」
するりと横に並び、倫子が右斜め上の天井を指さした。
そこには倫子の言うとおり、旧式の監視カメラが岩石の柱に隠れるように設置されている。
「作動してるの?」
「してるだろうね」
答えれば、倫子のピンと張った空気が一瞬緩んだ。
「…じゃあ、」
「僕らの居場所は敵に筒抜け」
「…気付いてたんならなんとかしろよ」
「バラした方がスリルがあるでしょ」
「…悪趣味」
そうこうしているうちに、狭い牢がいくつか並べられた場所に着いた。
監視カメラは本来この牢を監視するためのものらしい。
連なる牢獄のちょうど真正面に設置されている。
「…ちょっと、」
しかし牢の中はもぬけの空だった。
人が過ごしていた気配もない。
(使われた様子もない)
―――ならば、人質は。