AEVE ENDING
「武藤…」
また愚痴か?
「んー」
そう思い振り向きもせずに答えると、ジャケットの端を捕まれた。
「なん?」
今までにない仕草に振り向けば、ジャケットを掴んだまま、しかしこちらを見ていない朝比奈の姿。
通路の分かれ道に視線を向け、朝比奈は何かを探るように目を細めている。
「あん?」
「…声が致しますわ」
「は?声?」
「ほら、ここ…」
ジャケットをぐいぐい引かれ、静かにするよう目配せされながら分かれ道へと連れ込まれた。
少しばかり狭くなった通路を少し行くと、確かに明かりが漏れる扉が見える。
(───人か?)
(ええ。複数、…三人ですわ)
(つかこの扉だけ、この地下通路には似合わねーくらい頑丈だな)
朝比奈と二人、ピタリと扉に張り付く。
鋼鉄のひやりとしたそれは、この土くれと岩石でできた地下空間では浮いて見える。
(朝比奈、お前、透視は?)
(…少しだけなら、)
(出来るか?)
(出来ますけど、中を覗けって言うんですの?)
訝しげな顔をする朝比奈を黙らせ、武藤は顎で扉の向こうをしゃくる。
きらきらした武藤の目に圧され、朝比奈は嫌そうにしながらも頷いた。
「…その代わり、私が透視している間は周囲の警戒はあなたがして下さいまし」
こくこくと頷く武藤から目を逸らし、朝比奈はそっと瞼を閉じる。
意識を集中させ、扉の向こうを覗き込むように。
なにも見えない、閉じた視界。
けれどもう少ししたら、底の深い闇が、柔らかに次元を開いていく。
(…病室、のようですわ。白い壁、それに、…モニターが)
病室と見紛うばかりの白い壁に、それから手術用のベッドがひとつ。
ばらまかれたカルテのような資料に、フラスコや顕微鏡、そして部屋の至るところにあるモニター代わりだろう、旧式の箱形テレビが八台。
(白衣を着た学者…か、医者らしき者が三名。ひとつのモニターを見ながら、何か話を)
パチリ。
そこで急に透視を止め、朝比奈は青ざめた顔で武藤を見た。
「なんだよ、モニターにはなにが映ってた」
その様子を訝しみながら、今にも倒れてしまいそうな朝比奈の肩を抱く。
「…雲雀様が」
「……は?」
その時だった。
気配が近づき、扉が軋む音を立てて開く。