AEVE ENDING
「…人質は」
「知らない」
ザリザリ。
三人分の靴底から、砂を削る音がしていた。
「なんで居ねーんだよ!なんで!?」
「…だから、知らないってば」
かれこれ真醍と合流してからずっとこの調子だ。
空っぽの牢を見て安心半分、不安半分。
真醍はその不安を紛らわすように、安堵を確認し合うかのように、倫子に突っかかり続けている。
既に牢の部屋からは抜け出し、淀みなく進む雲雀のあとにつき通路を進む。
雲雀が本当に確固とした目的地を以て進んでいるのかなんてわからないが、真醍と倫子が先頭をいくよりよほど頼りになる。
「敵兵が居ると思う?」
前を行く雲雀が不意にそう発した。
真醍の相手をしながら、倫子はその問い掛けに何気なく肩を竦める。
「居ないでしょ。追放されたイカれた科学者の集まりだし、雇う金もないだろうから」
実験の資金援助は国からのものだ。
実験打ち切りの時点で、それ自体は完全に打ち切られた。
金の際限など考えない実験バカ共は、ただでさえ研究資金を湯水の如く使い続けていたのだから、政府としてもいい厄介払いだっただろう。
「───ふうん」
倫子の言葉に、雲雀は思案げに相槌を打った。
そのまま視線を倫子へと投げ掛けるが、本人は気付いていない。
「人質は!」
「知らないって!」
そして再び真醍と倫子の声だけが響き渡る。
倫子はまだ、自分が墓穴を掘ったことに気付いていない。
でかい図体で縋りつき、人質人質と喧しい猿の相手で手一杯だ。
「───橘」
そんな倫子を、磨かれた氷のような声が呼びつけた。
「なに。…ちょ、痛いって、触るな猿!」
全く耳に入っていないような倫子の態度に、雲雀は音もなく立ち止まる。
それに合わせ、騒ぎ立てていた倫子と真醍も足を止めた。
雲雀の不可解な行動に、ふたりして仲のよい兄妹のように首を傾げている。
「…何故、追放されたの?」
静かにこちらを振り向きながら、雲雀が近付いてくる。
薄暗い豆電球の下、白い肌はまるで病人のように青白く発光していた。
「は?」
雲雀の突然の質問を訝しみながら、迫力に屈してすぐ後ろに真醍がいるのも忘れて後ずさる。
一歩下がる余裕もなく真醍の硬い体に阻まれた。