AEVE ENDING
「…タチバナ?」
しかし、倫子は動こうとしなかった。
拳を握り締め、先程と同じ体勢のまま硬直している。
「…橘、行くよ」
雲雀が扉に向かいながら顔も向けずにそう促した。
随分と無責任な態度である。
「……」
倫子はゆっくりと時間をかけて顔を上げると、血の滲んだ唇をそのままに雲雀の後に続いた。
その倫子を気遣うように、真醍もゆっくりと歩を進める。
見目が異様なまでに麗しい男。
まるで絶望に打ちひしがれてしまったかのような、女。
そして、この地中世界を奪われた、一国の頭首。
妙な行進だと、真醍はぼんやりと考えた。
―――白い光が、眩しい。
扉を潜ったそこは、実に模範的な実験室だった。
薄汚れた白い壁、天井からぶら下がる水銀灯、乱雑に並べられた様々な実験器具、漂う劇薬の臭い。
真醍と雲雀は、慣れないその異臭に顔を歪めた。
倫子は顔色を変えず、やはり緊張した面持ちでただ正面を見据えている。
───白衣を纏い、嗄れ果てた三人の老人を。
「…久しぶりじゃのう、我らが造りし、神の申し子よ」
絶望を前にして、我々はそれに討ち勝つ目的を持たない。