AEVE ENDING
「…フン。いっちょ前に知ったような口をきく」
乱れた襟首を整え、男は口元に不愉快な笑みを張り付けた。
倫子は真醍を抑えるために冷静を装ってはいるが、腸が煮えくり返る思いで男を睨みつける。
耐えるように噛んだ唇は、赤い。
雲雀といえば口を挟むこともなく、書類の散乱したデスクに凭れ傍観していた。
「いつからアダムのなかに入り込んだ。このなり損ないが」
男は真醍から離れ、もうひとりの男の元へ歩み寄る。
「…黙れ」
視線で人が殺せるとしたら、今の倫子はきっと男を殺していただろう。
憎々しげに吐き棄てた言葉は、しかし男達に通じるわけもない。
にやりと歪んだ空きっ歯の口が嘲りを濃くする。
「彼らは知っているのかね?君が───」
「黙れ!」
パリンッ…。
倫子が怒鳴り声を上げたと同時、呼応するかのように部屋の隅に置かれたフラスコが薄い音を立てて割れた。
破片が男に飛び、皺だらけの皮膚に赤い皺をひとつ増やす。
「…つまらぬ力くらいは使えるようだな」
「しかしまだまだだ。オリジナルの力には到底、及ばない」
年齢を喰った男から流れる血は黒く、流動性に欠けた。
男達はそれを愉快そうに眺め、倫子を嗤う。
(―――まだまだ数値が足りぬ)
(アドレナリンの分泌をもっと増やさなければ、細胞は活性化しない)
(早く発芽すればよいものを―――)
神の足下にも及ばぬ、失敗作め。
「…そうしたのは、お前達だ!」
その三日月に歪む「眼」に脅えるように、それに震える足で立ち向かうように、倫子は引き絞る声を上げた。
忌々しげに怒鳴りつけられても、男達は嗤うばかり。
(…厭だ、思い出す、いやだ)
「我々を怨むか、橘」
「しかしながらそれは見当違い。貴様は我らに感謝すべきなのだ」
男達は愉快そうに嗤い続け、胡乱な目玉で倫子のひしゃげた肌を粟立たせた。
(厭、だ……)
この濁った目玉には見覚えがある。
今と同じに、ベッドに拘束された私を嗤っていた。
嗤いながら、私の体と心を引き裂いてゆく。