AEVE ENDING
「奥田も同じように誑し込んだのか?」
「その醜悪な体で」
男達は雲雀に支えられている倫子を更に煽るように嗤い立てた。
恐ろしい人の「悪」の部分が、波のように押し寄せている。
「てめえら…!」
あまりの言われ様に、基本的に人の良い真醍が倫子を庇った。
今や人質に取られた島民よりも、なんだか可哀想な雰囲気を漂わせている倫子の庇護で頭の中は一杯らしい。
「ほほ…、猿も吼える」
「人質が我らの手にあることを忘れるでない」
いきり立つ真醍を牽制しつつ、男達は言葉とは裏腹に後ずさった。
脆弱でありながら、倫子を傷みつけることだけは立派に遂行する男達は、醜い。
「…待って」
もう我慢ならぬと足を踏み出した真醍を止めたのは、雲雀であった。
「雲雀ぃ…」
さすがに素直に引いた真醍だが、しかし恨めしげな目は隠せない。
そろそろ暴れたくて仕方ないのだろう。
しかし暴れたがる真醍に、許しは出なかった。
「事情は知らないけど、僕は今、酷く気分が悪い」
倫子を腕で支えながら、雲雀は天気予報の話でもしているかのようにそう口にした。
しかしその声色には、弾むなにかも確かにあり、倫子も真醍も、半ば本能的にうんざりする。
「…なんでさ」
雲雀の言いたいことが解っている倫子は、口元に呆れた笑みを浮かべながらも尋ねた。
倫子の問い掛けに、雲雀は至極満足げに微笑んで。
「あざとい家畜は、処理すべきだから、だよ」
淡泊な笑みで、雲雀は部屋の端まで後ずさった男達を一瞥する。
冷たくも熱くもないその視線は無感情で、無垢で、邪悪で、男達は知らず、感嘆の息を吐く。
「異議がある者は」
「ねーっす!」
雲雀の言葉に、真醍が勢いづけて賛同する。
倫子も相変わらず顔色は悪いが、表情は随分と生き生きしてきた。
「なら、始めようか」
雲雀の柔らかな声が、残虐な合図。
真醍は我慢出来ないという風に飛び出し、腰に携えていた日本刀を抜き去る。
今までの人生をひたすら研究につぎ込んできた男達は、自分の身を守る術を持たない。
押し寄せる鋭利な刀の先を阻む術など、彼らは知らない。