AEVE ENDING
真醍が一人に切りかかる。
切っ先が緩やかに弧を描いて、右側に立っていた男の腹を裂いた。
研磨された濁りのない切っ先から血飛沫が吹き出し、腸が飛び出る。
「…っ…ぎぁぁああああぁあぁっ」
耳障りな悲鳴が室内を反響し、薬品臭のする血臭が強く鼻を刺激した。
のたうち回る血塗れの男を倫子はどこか無感動に眺め、胸の奥から込み上げる得体の知れない「なに」かに唇を押さえる。
「───っ…」
そうしなければ、それは悲鳴となって外に表れそうで。
(───あんたは、これを望んでいたの?)
倫子。
私を蹂躙した男が今、裂かれた腹から臓物を散りばめて血を滴らしている。
「こんなこと」を、望んでいたのだろうか。
───私、は。
「真醍」
叫び声すら上げられなくなった男のひしゃげた体を眺め、雲雀はやはり淡々と口を開く。
しんと落ち着いた瞳は、惨状を前にしてもまるで穏やかな海の底を思わせるほど。
「一人は生かしておいて。聞きたいことがあるから」
しかし、そんな雲雀の静かな言葉は、倫子の脳味噌を揺るがしてしまうほど衝撃的だった。
「…っひ、ばり」
聞きたいことって、なに。
動揺と焦燥に唇が震えて巧く言葉が出ない。
「…君のことには興味はない」
倫子の思想が流れ込んだらしい。
雲雀にすかさずそう答えられ、倫子は安堵の溜め息を震えながら吐いた。
(…それでいい、)
雲雀、あんたは知るべきじゃない。
(こんなことで、あんたに傷が付くとも思わないけど)
けれど、あんたが知らないでいてくれれば、私は救われる。