AEVE ENDING
「……ひ、っ」
一人が、息絶えた。
肉塊は痙攣し、裂かれた腹からは胎内と外気との温度差で湯気が沸き立っている。
(……気持ち悪い、)
倫子は唇を強く閉じ、嘔吐感に耐えた。
死体のすぐ傍に立つ仲間の男は、脅えた眼を湛えながらなお、口許には笑みを掃いている。
「…仲間が殺されてんの見て、嗤うのかよ」
真醍がそれを軽蔑するように睨む。
こいつらはイカれてる。
今更、その異常さに悪寒が走った。
「ふん…、どうせこうなると思っていた。研究を続けられないことが我らにとって如何に苦痛か、貴様等にはわからんだろう」
わかってたまるか。
冷や汗を流しながら、しかしなにかを揶揄するように。
「───橘…。醜い我らの子よ」
白濁としかけた胡乱な眼は、本当に目として機能しているのか疑わしいほどだ。
生気のない眼は、まるで倫子の体を喰わんとするが如く深く、強く、そして怪しく煌めく。
「忘れるな。我らが意志は、消えない」
聞き覚えのある言葉。
(───忘れるな!我らが築き上げた神の過程は必ず受け継がれる!)
倫子は閉じていた唇を緩やかに湿らせ、改めて男を見た。
「…あんた、追放された時もそう言ってたね」
―――奥田が手配した国の人間に連行されながら、最後の最後まで叫んでいた。
倫子はやはり今と同じく無感動に、部屋の外からそれを覗き見ていた。
「…忘れるなよ、橘」
まるで実の父親のように優しく声色を抑え、男は最終通告を口にする。
「大陸では既に第二の貴様が出来上がっている…。足掛かりとなるのだ、我らが崇拝する神の、アダムの、アダムだけの世界の構築のために!」
それは絶望が詰め込まれた、呪いの言葉。
「───…っ!」
両手を上げて、発狂したかのように高々と笑い出した男の襟首に、倫子は気が付けば掴みかかっていた。
壁に突き上げるように張り付けられた男は、苦しさに噎せるが嗤いはやめない。
「…第二の私?またアレを繰り返した?まだ幼い子供に?あの苦痛を……!」
ギリギリと首を締め上げる倫子の指に躊躇などない。
焦点の合わない瞳をゆらりと揺らし、我を忘れ、目の前の男を苦しめることだけに集中する姿は。
───「修羅」。
自らに与えられた二つ名の偶像を、雲雀は倫子に見ていた。