AEVE ENDING
(…結局、犠牲者はなしか)
捕まった島民達の無事はまだ解らないが、少なくとも箱舟の人間の無事は確定した。
嫌味な連中だが、誰かひとり死ねばやはり気分が悪いだろう。
(―――人が良すぎるんじゃない?身の毛が弥立ちそう)
疲労と安堵の溜め息を吐くと、雲雀がそうテレパスで語り掛けてきた。
見れば朝比奈の言葉を右から左に聞き流しながら、散らかった資料を手にしている。
それを睨み付けて、一言やけくそ。
(知るかよ、勝手によだってろ)
この冷血漢が。
(殺人未遂者が良く言う)
ムカッ。
「っざけんなよ、このクソスズメ!いい加減、しつっこいんだよ!」
ブチギレついでに手元の試験管を投げつける。
しかし雲雀はそれを避けない。
避ける必要もなかったからだ。
「…橘」
勢い良く飛んだ試験管を見事にキャッチした朝比奈がこちらを見ている──訂正、睨んでいる。
「…っ貴方という人は!どこまで野蛮なんですの!?まさかわたくしがいない間にも雲雀様に失礼な真似ばかりしていたのですか!」
歩み寄ってくる朝比奈の表情は憤怒。
端正な顔特有の迫力に圧され、倫子は後退るしかない。
よほどのお怒りか。
試験管を握る手には、握り潰さんばかりに力が入っている。割れるぞ。
(元気いっぱいだな)
無事だったどころかなんの問題もなかったらしい。
鈴木達のように研究者達の手に掛かったわけでもなさそうだ。
(……ん?)
「橘!」
ふと湧いた疑問を吹き飛ばすように叫ばれた。
なんだよ。
「うるさい。大体、なんであんた達がここに居るのさ」
「え」
また吹き飛ばされないうちに、と不意に疑問を口にすると、朝比奈の勢いがぴたりと止まってしまった。
(…なんかあったの?)
「な、なんです?」
明らかに動揺を隠せないでいる朝比奈に、更に追い討ちを掛けてみる。
「…いやだって、この地下世界にどうやって入ってきたのかと思って」
入口なら島中に在るのだろうが、一体どこの入口からどうやって入ってきたのだろう。
「うちらがここに居ることも知ってたわけ?あ、奥田みたいに探索能力が使えるとか?」
思えば疑問ばかりだ。
鈴木達同様、研究者達に捕まって連れてこられたというなら納得もするが、そんな様子もない。