AEVE ENDING
「…それより、僕は今回のセクションの意図が理解できない」
そんな変人を前にして、畏縮もしない、体裁も繕わないという態度を保つのは雲雀くらいだ。
麗しい容姿をした青年は、産まれてこの方、他人にひれ伏した記憶がない。
はじめから「暴挙」という文字で構成されているに等しい性格なのだ。
傲慢、狡猾、凶悪で凶暴、排他的、しかしながら、確かな魅力を纏う青年―――若いアダム達から羨望される、最年少で「修羅」の称号を与えられた、唯一のアダム。
「なにか、おかしいかね」
雲雀の言葉に、幾田桐生の白濁が不気味に輝る。
自らに向けられた白濁を見つめ、雲雀は溜め息を吐いた。
「…聞いても無駄なようだね」
その諦めたような声色に、幾田桐生は満足そうに頷く。
「その通りだ。意図などないのだから」
壊れ物を扱うかのように、ブリキ人形を漆塗りされたデスクへと置く。
美しく磨かれたそれに、人形の無機質な肌が映り込んでいた。
「余計な詮索は無用。……そう思わせていればいい」
開いた手を組み、幾田桐生は穏和な笑みを再び雲雀に向けてきた。
雲雀も冷ややかな、口角を上げるだけの笑みを返し、理事長室を後にする。
「―――会長」
理事長室の扉を開ければ、二人の男子生徒が直立立ちで廊下に立っていた。
きっちり着せられた漆黒のブレザーが、まるで黒煙のように見える。
「…仕事は終わったの?」
やる気がなさそうに息を吐き、雲雀は弛みなく締めていた細いリボンを解く。
すぐさま手を差し出してきた一人にそれを預けると、長い回廊を歩き出した。
格子窓から覗く広い中庭には、いつもよりざわついた生徒達が群がっている。
「…浮き足立っているようだね」
不愉快だ、と言わんばかりに眉が寄った。
それを受けて、生徒会執行部の二人が口を開く。
「合同セクションのせいでしょうね」
「彼らの目的は、西の女生徒ですから」
雲雀の後を陰のように歩く二人が、口々に答えた。
「…全く、知恵も能力もない女のなにがいいんだかしれない」
女を理由に浮き足立つなんて、愚かだ。
東部箱舟の威を借りたひ弱なキツネ如きが何をしようが、雲雀の関知する事ではないが。
雲雀は中庭から視線を戻すと、再び長い回廊の先に顔を向けた。
それを受けて、一人が手を差し出す。
その手には、花の刺繍が施された便箋が一通。