AEVE ENDING





「橘」

雲雀の指が倫子の髪を梳くように絡めとり、顔を持ち上げた。
さして強制でもなく上向かされた視線の先には、冷たくて深い目がふたつと淡白な笑みがひとつ。

「なに、」
「泣けばいいのに」

残念そうな言葉と、期待外れの眼。
けれど倫子は。

(…なんだ。いつもと同じ眼をしてる。つまらない)



「なんで」
「嗤ってあげるのに」
「残念ながら、枯れちゃったよ」

そんなもの、とっくの昔に。

「そう?」

雲雀が笑う。
素直じゃない笑い方は、その人間離れした顔を人間らしく歪ませた。


(キレーな顔…)

なんでこいつなんだろう。

これじゃあ、まるで。

慰められた気分、だ。



「慰めたつもりはないよ」

(…読まれた)

「うっせ」

既に離れた雲雀の繊細な指が視界の端を泳ぐ。
ゆっくり伸ばされた人差し指がモニターのスイッチを静かに落とした。
振動していた機械音が消えて、室内が水を張ったように静かになる。

「…?」
「真醍が戻ったね」

どうした、と尋ねる前にドスドスと喧しい足音が通路から響く。

「ただいまー!雲雀ぃ、タチバナぁ!寂しかったろーぅ!」
「いや、全然寂しくねぇから。どんな勘違い?」

言いながらも、馬鹿みたいに元気で帰ってきた真醍の笑顔に少しほっとしてしまった。

「人質は」

雲雀が気を失った男の首根っこを掴みながら、真醍に尋ねる。

「…無事。おまえ等の仲間は」

肩を竦めて、真醍は苦笑した。
真醍の言葉に、背筋が寒くなる。

「…島の人達は?」

真醍は倫子の問いにやはり苦笑を漏らしたまま、疲労した身体からがくりと力を抜く。

「あぁ…、半数はとうに死んじまったって。残りは生きてはいるけど、栄養失調で衰弱が酷い。蓄えが少ないガキが少しヤバい、かも」

(こども…)

あぁ、なんてことだ。

真醍の言葉に、雲雀が顔を上げる。
人質が生きていたことは奇跡に近いが、無事に帰せなければ意味がない。



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