AEVE ENDING






「…いくつなの」
「四、五歳」
「…そう。母親は」
「一緒に捕まってはいなかった。人質になってた他の奴らが面倒をみてたらしいが…」
「島の医者はいないの」
「いる、にはいるけど…」

衰弱が酷すぎて動かすことができない。
医者を連れてくるにしても、時間が掛かりすぎる。

真醍と雲雀が話を続けているが、倫子はそれどころじゃなかった。



「…、」

(栄養失調症…)

自分にも経験がある。
歯が使えなくなった時、私はどう扱われた?


「…そうだ、」

───確か、あった筈。
倫子は一握の希望をかけて、物が散乱した薬品棚に飛びついた。

「…橘?」

そんな姿を訝しむ雲雀の声に、今は答える余裕もない。
棚の引き出し、引き戸、全て全開にして中を漁る。
注射器や睡眠薬、サンプル用の空容器、麻酔、鎮痛剤……。


「タチバナ?」

真醍の訝しげな声も聞こえない。
急がなくては。

「───雲雀、真醍と無事な人質、気絶してるそいつ等をテレポートで上へ。真醍は救出した人質達から先に医者に診せて。研究者は牢へ」

ガサガサ室内を漁りながらの倫子の指示に、ふたりは尚更訝しみながらこちらを見ている。
しかし今は一から説明している時間も惜しい。

「子供は」
「助ける」

倫子の言葉に、真醍は眼を見開いたようだった。



「でも、タチ、」

あぁもう!

「っいいから早くしろ!…雲雀、真醍達を連れていったらすぐ戻ってきて。私、牢の場所わかんない」


───クソ、ない。

目的の栄養剤はどこにも見あたらなかった。
ここにないなら、と倒れている二人の男の服を漁る。

しかし二人を漁ってみてもやはりない。




(───あぁ、違う。こいつらじゃない)

毎日のように栄養剤を口にしていたのは、確か、確か。

「タチバ…」
「煩い!」

真醍の戸惑いを含んだ制止の声をはねのけ、私は死んだ男に駆け寄った。

びちゃりとスニーカーに血が飛び散るが、それどころじゃない。
血と内臓の溜まりに膝を着き、血液で赤く染まった男の白衣を剥ぎ取る。




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