AEVE ENDING
「…橘」
死体を漁る倫子を、なんの感情も含めずに眺めていた雲雀が背後から呼んだ。
あぁ、もう。
「なに?早く行けって!」
「無駄足はごめんだよ」
淡泊な雲雀の言葉に、何故か後押しされた気分になる。
(は…)
血に濡れきった指先の震えが、ほんの少しだけ弱まった。
「…わかってる!」
倫子がそう応えれば、すぐに雲雀に向けていた背中に痛みが走った。
テレポート。
雲雀の強大な力が、この脆弱な体を蝕もうとする。
(これだけ近くでやられるほうが、痛い…)
それでも血濡れた死体を漁りながら、倫子は目的の物を探す。
「タチバナ」
真醍の、呼ぶ声がした。
けれど振り向いている暇もない。
「───頼む!」
··
雲雀が飛ぶ瞬間、真醍の声が鼓膜を震わせていった。
少しだけ、涙が出る。
―――絶対、助けるから。
「……あった、」
血が滲みきったズボンの後ろポケットにそれはあった。
何錠かが連なった、青に白のラインが入ったカプセル。
(…何度か飲まされたことがある。これなら…)
人間の子供にも支障はないはずだ。
少し強力だが、衰弱しきっているなら効果が効きすぎることもないだろう。
倫子はそれを握り締め、死体から離れた。
あとは雲雀の帰りを待つのみ。
(汚い…)
こうして待つ間にも、自分から漂う血臭は腐食していく。
思わず見下ろした自分の姿は赤黒く、生臭かった。
膝には男の血管の切れ端が、ぴたりと貼り付いている。
「……」
思わず顔をしかめた倫子の耳に、小さな呻き声が届いた。
そちらに目を遣れば、はじめに壁に投げつけられた男が動いている。
「…起きたの」
頭を撃ったらしい。
額から血を滴らせ、その傷口を抑えたまま、老人らしい仕種でぎこちなく、弱々しく顔を上げた。
「…た、ち、ばな」
その眼はもう、生きていない。
あの頃のあんたは、酷く無邪気な眼をしていたのに。