AEVE ENDING
「…死んだの?」
気配もなく、雲雀が背後に立っていた。
先に口にした、倫子の言葉と同様に。
倫子は振り向かずに、頷くだけ。
それしか、できなかった。
「タチバナ!子供!」
けれどすかさず急かす声に、倫子ははっと息を吸って振り向いた。
焦燥を見せる真醍と、いつもと変わらない雲雀の姿。
(浸っている場合じゃない)
急激なスピードで、現実が戻ってくる。
「あんた、戻ってきたの」
「頭領だからな!タチバナに任せっ放しじゃカッコつかねーべ!」
真醍が笑う。
それに少しだけ、救われた。
「行くよ」
雲雀が急かす。
雲雀の腕がゆらりと伸びて、倫子と真醍に触れた。
「あ」
その綺麗な指が、血濡れた服に触れそうになって、思わず声を上げる。
「ごめん、汚れる」
「どうでもいい」
倫子の謝罪を突き離して、雲雀は躊躇なく血濡れの身体を抱え込んだ。
近付いて鼻腔を擽る痺れるような甘い匂いに、自分の血臭を恥じる。
(馬鹿らしい…)
自嘲するが、しかし真醍がお構いなしに叫んだお陰で吹っ飛んだ。
「タチバナ、ずりぃよ。雲雀、俺も抱っこして」
「…死にたいの」
「お前の腕で死ねるなら本望だぁぁ───!」
「「気持ち悪い」」
喧しい真醍の相手をしている間に、テレポートは一瞬で済んだ。
これで三回目とはいっても、未だ身体をバラバラにされる感覚には慣れない。
そうして急激に訪れた薄闇に目が慣れれば、ひとりの老婆の姿が見えた。
その腕には、肉が削げ、完全に節々の骨が浮きでた幼い子供。
「長様…」
真醍を認めて老婆が顔をあげる。
しわがれた声には、生気がない。
(自分も辛いだろうに、残ったのか…)
倫子は足早に近寄った。
そんな倫子に、老婆は怯えるように子供を抱えたまま後退る。
血に濡れたこの姿は、それは異様に映ったことだろう。
「バアチャン、大丈夫」
真醍の言葉に、怯えながらも後退るのをやめてくれた老婆の傍に膝を着く。
子供を見れば、まるで魂を吸い取られた器のように、動かない。
辛うじて微かに胸が上下しているが、それも今にもとまってしまいそうだった。
(…衰弱がひどい)