AEVE ENDING
「水はありますか」
倫子の問い掛けに、老婆は顔を横に向けた。
そこには少し高い石段の上に蛇口がひとつと、欠けた水飲み用の器が転がっている。
(…水だけを与えられていたのか)
倫子は血濡れた手をそこで洗い流し、器に水を入れる。
足早に老婆の元に戻り、老婆から子供を受け取った。
「……、」
やつれきった幼い顔が痛々しくて、泣きたくなる。
抱えた体はまるで枝を抱いているように硬く、細く、軽い。
―――痛い。
「タチバナ」
「なに」
「大丈夫か…?」
子供を抱えたまま固まってしまった倫子に、我慢ならなかったらしい。
真醍が情けない声でこちらを覗き込んできた。
「大丈夫」
そう笑いかけると、真醍も老婆も、少し安心したように笑んでくれる。
それに慰められながら、倫子は握っていたカプセルを一錠取り、水と一緒に口に含んだ。
子供の枯れた唇に唇を合わせ、水とカプセルを流し込み、少し首を後ろに引いて喉を反らしてやれば、く、と音を立てて飲み込んだ。
やがて小さく咳き込んだ子供の背中をさすってやっていると、雲雀が首を傾げている。
「今のは?」
「栄養剤。あの男が愛用してたやつ。私も何回か飲まされたから、大丈夫だと思う」
(普通の健康状態の身体には使えないくらい、強力なやつだけど)
「…どうして」
こどもを老婆に引き渡し、雲雀の小さな呟きに顔を上げる。
「なに?」
「どうしてそんな物を、橘は服用していたの」
その言葉に、ゾ、と内臓が冷えた。