AEVE ENDING
「あの、…奥田先生」
奥田が医務室で昼食のうどんを啜っているときだった。
開いた扉から戸惑いがちに声を掛けられた。
「はぁい、なんすでかぁ」
だしを吸った木箸を咥えたまま振り向けば、遠慮がちに立つミスレイダーの姿。
「あれ、どうしました?」
彼女がこの部屋を訪ねることは月に一回あるかないかで、今日は明らかに珍しい一日だ。
「…あの、奥田先生にお電話なんですが」
戸惑いがちにミスレイダーが口を開くが、そんな怪しい態度を取られるような内容じゃない。
首を傾げつつ、一先ず電話に手を伸ばす。
「誰から?」
なんの気なしに問えば。
「あの、北の島に向かった、雲雀さんから…です」
ミスレイダーの遠慮がちな声に、やっと彼女の戸惑いの理由がはっきりする。
(あぁ、はいはい)
なるほどね。
「了解です」
後でちゃんと報告しますよ。
そう言い捨てて、ミスレイダーを部屋から追い出す。
冷静ぶって受話器を耳に当ててみるが、自然とこみ上げる笑みが抑えきらない。
「アーローゥ。雲雀ちゃん、元気してた?もしかして寂しくなって先生に電話しちゃったのかな?」
無言。
「…ごめんなさい、冗談です。無言電話って君が思ってるよりずっと破壊力高いからね」
倫子なら喜んで相手にしてくれるのになぁ、なんて考えながら――倫子にしてみれば大変心外だが――耳と肩で受話器を挟み込む。
まだ器にうどんが残っている。
「それでどうしたの、雲雀ちゃん。北の島から電話寄越すなんてびっくりよ?ミスレイダーも困惑してたみたいだし」
『…別に。たまたま島に貸しを作っただけだよ』
受話器越しの雲雀の声は静かだ。
声だけなら、まさか我々アダムを迫害する島からの電話だとは誰も思うまい。
「…へぇ。貸し、ね。偏屈な科学者でも居たかい?」
奥田がそう言えば、雲雀は小さく吐息を零したようだった。
それは妙な憂いを帯びていて、近距離で吐き出された耳が思わず粟立つ。
(受話器越しで、あまつ男だってのに今の吐息はヤベーなあ。おじさんドキドキしてきちゃった)
まさか電話相手がふざけた劣情を自分に対して抱いているとは思いもしない雲雀神は、更に話を進める。