AEVE ENDING
「…生意気、」
囁くような、その柔らかな声と、強まる拘束に。
「あんたのその、誰でも力任せに地に伏せさせるようなやり方、大嫌いだ」
だから、屈しない。
その眼は、そう語るのだ。
腹立たしい程、強く。
それが酷く煩わしくて、愉しい。
「…なら、試してみようか」
幸い、目の前に拘束した女は、それに耐えることができる。
今までなんの反旗もなしに従ってきた腑抜けた家畜とは違う。
そう言うのなら。
「…耐えて見せて」
くすり、と美しく湾曲した唇が歪められる。
その雲雀の挑発に、倫子は目を見開いた。
重苦しい切迫感に圧され、拘束を解こうと手を捻る―──前に、雲雀が動く。
ギチ、と腕の付け根が軋むほど強く乱暴に手を引かれ、冷たい床に押しつけられた。
「っ…」
自由な左腕で顔面直撃を防ぐが、すぐに背中に掛かった重圧に押し付けられる。
肺を圧迫されて、息が詰まる。
「ほら、まだ…だよ」
倫子の背中に跨がったまま、その首を締め上げた。
俯せの倫子の表情は、なにも見えない。
けれど。
「───離せ」
ほら、噛みついた。
首を絞めていると言っても、喉仏や器官を握りつぶしているわけではないので、彼女の言葉は思いの外はっきりと聞こえた。
強く強く、屈伏はしない。
「…解放されたいなら、話さなきゃ」
床に押し付けられたまま、抵抗もろくに出来ない倫子をからかうようにその耳殻で囁けば、憤慨したように身を震わせた。
女も男も、いたぶるのは大好きだった。
気丈を装っていても、一瞬あとにはこの手に墜ちる。
堕落させることは大変愉しいのだが、堕落してしまった人間には興味が湧かなかった。
墜ちた彼らは、まるで神に対するが如く自分に畏怖を抱き畏敬を盾にへつらい、媚びた。
遺伝子が変化し、新人類と呼ばれても、人の性はその血中に残ったままだったらしい。
『―――アダムは、人間は、醜く滑稽な生き物だ』
以前、幾田桐生が口にしたそれは、雲雀にとって当然で常識であり現実でもあった。
自らが神ではないと理解している雲雀にとって、だからこそ他者は屑で塵で煩わしい。