AEVE ENDING
「…っ私は、あんたの玩具じゃない!」
首を軋ませ、こちらを必死に振り向きながらその眼は睨む。
普段、甘ったれた目つきが一変する、炎(ほむら)を宿す、眼。
その意志は屈強で生意気で、酷く好ましい。
―――だから。
(もっと見せて)
抗って抗って抗って、傷を付けてみせて。
(僕が、楽しめるように)
だからこそ、最高の遊び相手になる。
「それなら早く振りほどいたら?……玩具だなんて、まだ遊ばれてもいないのに」
項に唇を寄せて挑発すれば、こちらを睨み付けている充血した眼が怒りに揺れた。
ゆらゆら。
僕を、殺そうとする。
殺気に満ちた視線がかつてないほど、僕を高ぶらせている。
「玩具、か…」
そういえば、ピグマリオニズム(人形愛)の神髄とやらを幾田が話していた気がする。
玩具も人形も、同じだ。
「愉しませてよ」
どんな玩具になりたい?
舌舐めずり。
目の前のそれは、人形と呼ぶにはあまりにも従順に欠け、粗雑で、美しくもないけれど、だからこそ。
(…人形と呼ぶには、惜しい)
「ふざけんな、このクソスズメ!お前の飯事に付き合う優しさなんかこっちは持ち合わせちゃいないんだよ!離せ!」
吼えるだけなら、誰でもできるのに。
口汚い言葉をただ吐くだけの倫子に少々興醒めした雲雀は、その背中に全体重をかけ、内臓を圧迫した。
同時、首に五本の爪を立て、強く冷たい床へと押し付ける。
「ぐ、ぁ…!」
そうすれば、悲鳴になりそこなった声が低くなって唇から漏れた。
「どうしたの?もう終わり?」
艶やかに語り掛けてくるこの男に命が狙われているのだと、倫子はそうぼんやりと理解していた。
喉仏や器官を直に掴まれているわけではないが、その位置を堅く冷たい床に押し付けられているために酷く苦しい。
酸素が満足に喉を通らないまま、雲雀の体は倫子を潰そうとする。
(…苦しい)
「───ぃ、!」
爪を立てられていた首に、激痛。
柔らかな、自分のものとは違う上質な髪の感触が首の裏を撫でた。
それから、生物の骨のような、硬すぎず、けれど柔らかくもない、感触。
―――噛まれた。