AEVE ENDING







「雲雀くぅん」

コツコツ、とそれは小さく耳に届いた。

倫子の耳元で凶言を囁いていた雲雀は、その声に顔を上げる。
眼下の表情は、先程から見えていない。

…コツコツ。

ノックは相変わらず続く。
まるで謀ったかのようなタイミングに気分を損ねずにはいられなかった。
訪問客の正体を考えれば、尚更。

雲雀は微動だにしない倫子から退き、コツコツと未だ鳴り続けている扉へと向かった。


「ひ·ば·り·くん」

一体、いま何時だと思っているのか。
少なくとも教師が生徒の部屋を訪ねるような時間帯では決してない。

扉を開けば、やはりそこには白衣の男。

「…なんの用?」

これからだったのに、と惜しまずにはいられない。

不機嫌な雲雀に、奥田は出来損ないのまま、ふざけた微笑を浮かべた。


「ちょっと、おはなしあるの。時間ある?」
「ない。じゃあね」
「っ…え、ちょっと!」

扉を閉めようとした雲雀に、奥田は慌てて縋りつく。


「離せ」

冷ややかである。

「やだなぁもう、雲雀くんたらお茶目さんなんだからぁ。大事な話があんのよ、マジで。頼むから付き合って」

拝み倒す。

「話なら、明日聞くよ」

しかし雲雀は流されもせず淡々と言い返した。
強硬な態度に、奥田は愉快だと言わんばかりに嗤う。
醜く歪んだ唇が、雲雀の神経を逆撫でした。


「そんなこと言っちゃってさぁ。…君、知りたいことがあるんじゃないの?」

部屋の奥──上体を起こしたまま、黙って俯いている倫子を見やる。
眼鏡越しでよく見えない視線が、酷く苛立ちを感じさせているようだった。

「…あーあ、もう。無理に聞き出すのはよくないよ。男は甘く囁いて、女に心を開かせなきゃ」

茫然自失としている倫子に歩み寄りもせず、ただ扉に背凭れたまま奥田は低く嗤う。

(…気に入らない)

この、なんでも知っているような眼が、とても。

「あんま虐めないでやってよ。…あいつ、壊れちゃうから」

くつりと嗤った唇は、しかし嗤ってなどいない。
フィルターを通した眼は、無言で雲雀を責めていた。




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