AEVE ENDING
「黒幕の予想は」
ほら、こうしてすぐ、鋭く切り込んでくるから油断できない。
「刺客にはなにひとつ聞き出す前に死なれているから、詳しいことはなにも」
「何回来た?」
「…三回くらいかな」
「いつから?」
「三ヶ月前から」
「…三ヶ月……」
「心当たりが?」
「…ねぇんだよなぁ」
奥田は少し髭の生えた顎に手を添え、窓の外を見た。
視線の先は、貧困地区の篝火が煌々と深い夜を照らしている。
「ねぇ」
「ん?」
雲雀が呼び掛けても視線は戻さない。
ふと、本当に無意識に、橘ならこちらを見たのだろう、などと下らないことを考えた。
(馬鹿馬鹿しい)
「…どうやって嗅ぎ付けたの?」
頭に浮かんだ不愉快な思考を打ち消すように、雲雀は奥田に問い返した。
「あぁ、…俺ね、持ってるのは東部箱舟の保健医って肩書きだけじゃねーから」
情報源なら沢山あんの。
君より長く生きてるしね。
にやぁと不気味な笑みを浮かべ、意味深な言葉を躊躇いもなく言い放つ。
「…そう」
巧く誤魔化された。
こんな男にはさほど興味は湧かない――けれど、その組織の一員がまさにこの男だとしたら?
「で、さ、雲雀くん。得体の知れない奴らが最近でかいツラしてるから、くれぐれも気を付けてくれたまえよ」
やっとこちらを見たと思えば、奥田は至極真面目な視線を投げかけてきた。
口にしている台詞は妙に芝居がかっていて癪に障るが、その眼がふざけている様子はない。
「…この箱舟周囲にさえ、うろついている馬鹿がいるからね」
雲雀君の実力は承知の上。
だからこそ万が一、敵の手に堕ちたら困る。
人類にもアダムにも、彼らは血を求めるだろう。
その時、雲雀君の力があちらに付くのは大変キツい。色んな意味でキツい。
「魔王誕生だもの」
奥田はおそろしや、と小さく呟いた。
「…それでね、なにが言いたかったかと言うと」
まだなにかあるのか、と話を続ける奥田を、雲雀は呆れたように見た。
話の脈絡がいまいち噛み合わない男は、少し躊躇うように嗤う。
「もし君が危険になったら、傍に居る倫子は棄てて欲しい」
それはまるで、裏腹な願いのように。