AEVE ENDING
「…あんな足手纏い、僕が庇うと思うの?」
雲雀僕が答えれば、奥田はくつりと嗤った。
その未熟さを嘲るような、濁った眼で。
「……君は助けるよ、君は自分が思っているよりずっと、お優しいからね」
それはまるで暗示のようだった。
今、己が足を浸けている得体の知れないなにかをつかって、眩惑するように。
「───皮肉?」
その小馬鹿にした物言いに、自然と眉が上がる。
倫子から与えられる不愉快さとは別の不快さが、雲雀を侵食した。
「そんな怖い顔しないでよ。褒めてんだよ、倫子なりに」
雲雀の殺気じみた気配に、奥田は両手を上げて降参した。
そのおどけた様子も気に入らないが、倫子倫子、五月蝿い男だと思う。
「…あなたにとって、橘はなんなの」
そうして気が付けば、そんな事を口走っていた。
「…気になる?」
途端、奥田の唇がにぃと裂けんばかりに歪んだ。
腹立たしい未完の笑みに、苛立ちが増す。
「あなたと橘は互いに執着し過ぎていて、正直、キモチワルイ」
その顔を見たくもないと視線を逸らせば。
「…ちょ、三十路前のオジサンにキモチワルイは禁句じゃない、雲雀くん。お父さんにも言ってない!?言っちゃダメだよ?三十路超えたらもっと駄目!」
チャラけ出した。
ウザ過ぎる。
「雲雀くぅうううん!今もろ流れてきた!テレパスで脳味噌アッパーカットされた!」
なんだかもう、対峙していることすら、いやだ。
「……帰る」
付き合ってられない。
雲雀が聞きたいことはなにひとつ得られなかったが、この男の相手は正直、面倒だった。
立ち上がった雲雀僕を、先ほどのふざけた態度とは一変して可笑しそうに見る奥田は、ソファに凭れながら口を開く。
「…製作者と、失敗作」
囁くように吐き出された言葉は、まるでぼろぼろに錆びた凶器のようだった。
オマケ。
付き合ってくれて、アリガトーネ。
そう言い捨てた男を嫌悪露に一瞥して、雲雀は黙ってその部屋を後にした。
───酷く後味が悪く、不愉快だった。