AEVE ENDING



「誰待ち?」
「アミ」

即答すると、奥田の顔が強ばる。
アミはこの変態男の元即席ベターハーフ。
それ以来、この男はアミが大の苦手だ。

「…あいつ、元気してる?」

二度目の奥田たきお、二十七歳。
十近く年下の女のことで、苦虫を噛んだような表情を浮かべる花盛りの中年。

「さぁ?もうすぐ来るよ。会ってったら良いんじゃない?元気かどうか、顔見れば解るでしょ?せんせぇ」
「ちょ、やめてよ、ミチコ。オジサンをいじめないでぇ」

咥えていた煙草を胸ポケットに投げ捨てて、奥田は下手くそな苦笑を浮かべた。
この男の、普段見せないドロドロとした本性はこういう時に顕れる。

微笑の作り方。
上げられた口角が左に依る。
それはそれは不自然に。皮肉な笑顔はなり損ない。
この世界を小馬鹿にするように。

「そういえばさぁ、お前、雛ちゃんを虐めたって?」

そんなことを考えていたら、見知らぬ言葉が奥田の口から飛び出してきた。

ひなちゃん?

「我が西部が誇る、勇ましき女生徒会長様のことだよ」

私が首を傾げたことを受け、奥田は笑顔を引っ込めてそう答えた。
そうしてもう一度、よれた煙草を咥え直す。

西部の会長。
その単語に、まだ真新しい記憶が湯を注したカップラーメンのように蘇った。

「あぁ、あのストリップ女」

昨日の食堂での一件は、よい思い出ではない。できれば反芻したくない事件だ。

「うっそ!マジで脱いだのあの子!ヤバッ!オジサン見たかった!見逃した!」

奥田がいきなりハイテンションになる。キモい。

「ちょっと、純粋な乙女の耳に汚らわしいセリフ入れないでよ。大体、あんたならすぐ脱がせられるでしょ」

あれが「雛ちゃん」だとすれば、まだ十代とはいえかなりの美人だ。この男にしてみればストライクゾーン以外のなにものでもない。
まだ手を出していなかったことのほうが驚きだった。

「ばっか、お前知らねーの?あの子、神様に盲目的な恋しちゃっててこんなオジサン全然相手にしてくれねーよ」

はぁ?神様?
内心で、そりゃあんたがオジサンだからだと毒づきながら、窓へと向けた目でその抽象的な言葉を咀嚼する。
大きな窓ガラスの向こう側には、汚染された海洋と浜辺。
いつもは人影も見えない浜辺に、今日は二種類の制服がうようよしていた。



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