AEVE ENDING
(…アリんこみたいだ)
皮肉を込めてそれらを眺めながら、奥田は煙草を咥えたまま呟く。
「修羅のことだよ」
ツ、と耳に突き刺さるような音で、それは私の中に入ってきた。
どこか粘着質な音を立てて、ぐちゃりと腹の中に溜まる。
―――あぁ、修羅。
あの気位の高そうな彼女も、リアル王子様には敵わなかったのか。
全く、みんな青春しまくりじゃん。
まぁ、そのあたりはアダムも人間も変わらないか。
「恋は盲目の手本でね。彼以外見えてない。このセクシーキングが迫ってるのに、私にはヒバリ様しか見えませぇん!とか涙目で言われちゃってさぁ」
そりゃあんたと修羅を天秤に掛けたらどう転んでも修羅だろうよ。
とは言わないであげる。
「キモ。声色真似すんのやめろよオジサン」
隣に立つよれた白衣からわざと距離を置くように後退すれば。
「かあいくねえなー!ミチコは!」
そんな私の頭をがしがしとこねくり回し、笑った。
これが奴なりのスキンシップ。
まるで絵に描いたような。
(相変わらず、不器用な大人…)
そんな掛け合いをしているうちに、ドーム型のホールから人の気配が消えた。
あれ、皆もう行っちゃったの?
もしかしなくとも私とアミ、取り残された?
ガラス窓の向こう側では、黒い制服達が餌に群がる蟻のように蠢いている。
これヤバくね?
完全遅刻じゃん。
「…アミってば遅くない?」
奥田が私の頭に手を置いたまま周りを見渡す。
彼もこのホールの静けさに、私と同じことを考えていたらしい。
「倫子、遅刻じゃん」
「やはり」
「遅刻だろうね」
おかしいなぁ、アミが待ち合わせに遅れるなんて、一度もなかったのに。
「…奥田先生ぇ、探ってみてよ。アミが一体どこにいるのか」
もしかして、睡魔のあまり教室で寝ちゃってるとか?
縋る思いで奥田を見やるが、あまり期待できそうにない。
「やだよ。お仕事じゃなきゃ力使いたくねーもん」
奥田は優秀な精神系アダムだ。
生物はそれぞれ微弱な静電気を纏っているそうで、それは個々で全く別の物らしい。
表情や声や感情のように、同じものは万に一つもない。
そういった特徴をもとに、特殊なサイコキシネスの触手を伸ばしてその人物の位置を探ることができる能力。
遭難した人間の捜索にとっても便利です。