AEVE ENDING
「…こ」
―――そうか。
昔はそんなことを言っていたのか。
「…ちこ」
懐かしい夢を見た。
夢で記憶を辿るなんて、なにを考えているんだろう。
(逢いたい、だなんて、かわいいこと言うね、私も)
朦朧とする頭の中に夢と同じ声が響く。
「…倫子」
瞼を開ければ、ちょっと老けた奥田の顔があった。
「倫子、見えてる?」
倫子の目の前で、手をぷらぷら揺らめかせる。
それに合わせて視界がちかちか点滅したが、酷くはなかった。
奥田が上から覗き込んでいるということは、ベッドに寝かされているらしい。
「…やっぱ老けたね、奥田」
あの頃はまだ若くて、今よりずっと青臭かったのに。
(…胡散臭さは変わらないけど)
ふ、と昔と今の奥田を重ねて、倫子は笑った。
「……え、なに?奥田先生よく聞こえなかった」
「老けた」
「なにが」
「奥田」
「うそぉ!」
ショックで青ざめた奥田が視界から居なくなる。
どうせ鏡でも見に行ったんだろう。
奥田の代わりに、白くくすんだ天井が視界を埋めた。
辺りが薬品臭い。
それに妙に静かだ。
ここは、医務室だろう。
(確か、倒れたんだよね。…あの出血で自力でここまで来れるわけない。───てことは、)
雲雀が連れてきてくれたのだろうか。
(あの南極より冷たい男が?)
考えるが、寝かされたシーツが気持ちよくて思考がまとまらない。
熱っぽい。
傷が熱を持ったのか。
―――ズキリ。
あぁ、右腕の感覚が戻ってきている。
奥田が治療してくれたのなら、安心だ。
「、…」
けれど酷く、喉が乾いていた。
熱で発汗したのか。
戦っている最中は冷や汗も流した。
そういえば朝ご飯を食べていないから、今日はまだ一度も水分を摂っていない。
「けほ、」
―――考えたら、猛烈に喉が乾いてきた。
水分を欲して、乾いた喉が張り付いている。
「…っ」
水を飲むため、なんとか体を起こそうとするが―――。
「…動かねぇ」
全身が鉛のように重い。
(怪我だけが原因じゃない。薬のせいだ)
全身ぴくりとも動かせない上に、不愉快じゃない程度の痺れ。
顔は辛うじて、動く。
薬に慣れたこの身体に効くほどの投薬――医学は進歩しているんだな、なんて。