AEVE ENDING






「…、っ」

ゴクリと第一波を飲み干せば、乾いた喉が癒された。

癒されたのだが。

口移し、って、あの、つまりキス、…え、ちょ。



「ぶぶひゅっ」

な、なんか入ってきた!

ぬるぬるしたひどく熱い、得体の知れないなにかが、口の中で蠢いている。
それはぺろりと倫子の前歯を舐めると、それは唇が離れると同時にいなくなった。


「色気のない声…」

潤わされた筈の喉は、何故か上昇する体温のせいで更に乾いた気がする。

倒していた体を起こして、呆然とする倫子を見下ろす雲雀の、その濡れた唇が酷く艶やかで。

(あ、やべ、興奮しちゃう)

…じゃなくて。



「なにすんだ、この変態!」

慌てて叫ぶが、叫んでも叫んでも、唇に滲んだ柔らかさは消えてくれそうにない。

「…心外。飲ませてあげたのに」

そんな倫子に対して、雲雀はしれっといつもの調子。
いやだからって。

「誰が口移ししろっつったよ!バカ!アホ!ムッツリ!」
「まだ飲む?」
「飲むか!」
「そう、残念」

にっこり。
普段より二割まし艶やかな微笑みと共に殴られた。

「僕がここまでしてあげたのに、そんな無礼な口をきかれるとは思わなかった」

コップを戻しに行ったのか、肩を竦めてカーテンの向こうへ消えてしまった。


(なんだその言い草…。いや確かに、厚意あっての行為だったかもしれんけど、…ってシャレじゃねえかよ!)

いやとにかく、だってさぁ。



「…初めてだったんですけど」

一応、ちょっとは気になるじゃないか、一応。
思わず拗ねて、そう呟けば。

「大丈夫。今のはキスじゃなくて、ただの口移しだから」

戻ってきた雲雀が、パイプ椅子に腰掛けながらそう口にする。

「…そうかなぁ」
「そうだよ」
「うーん…」

だからと言って納得できない。
なにせぺろりと舐められまでしたのだ。

やってられねぇ。




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