AEVE ENDING
「…、」
入り口から既に惨劇を露わにする檻の内部に、倫子は思わず足を止めた。
(…あぁ、爆心地だから、特に酷いのか)
自分の生まれ故郷も酷いものだったが、ここよりずっとマシだったと言える。
田舎だからか、それこそ自然の恵みも多少はあったし、地は枯れてはいないから田畑で食いつなぐことがある程度は出来ていた。
(―――でも、)
この土地は、ダメだ。
(…死んでる)
足元の土地は渇ききり、深い亀裂が走っては皹割れている。
(昨日、雨が降ったのにこの渇きようは……)
雨が少なくないこの土地で、地面のこの涸れようは異常だ。
───土地が死ねば、必然的にその上に生きる生物も駄目になる。
憐れむなど身の程知らずだ。
相手が望まなければ、それはただ身勝手な感傷に過ぎない。
しかしこの嘔吐を催すような惨状に、心臓からこみ上げる黒い血液を止めることを出来ないでいる。
「…橘」
険しい表情で自分の足下を睨み付けていた倫子に、雲雀が呼び掛ける。
落ち着いた声、だった。
目前に広がるこの嫌悪すらこみ上げる劣悪さを、ものともしていない。
見上げた横顔はやはり、表情が乏しく作り物のように美しい。
けれど倫子のその目には、それが酷く高潔に映った。
「哀れみは、時に、侮辱」
雲雀が謡うように囁いた。
それは鼓膜を深く震わせ、倫子の乾いた喉を震わせる。
この場では違和感があるほどの精練された空気が、倫子の胎内を掻け巡っていった。
「うん、…ごめん」
苦笑が漏れる。
(やっぱこいつ、神様なんかじゃないや)
―――誰よりも人間らしい。
小さく笑みを浮かべた倫子に、雲雀も口許に小さく笑みを浮かべた。
それは決して、柔らかな笑みではなかったけど。
(寧ろ見下されていたけど、)
悪い奴ではないか、と懲りずに考えている自分に、もう一度苦笑した。